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サクラの下で
夜桜が舞い散る人気のない場所。桜の木の真下に、彼は佇んでいる。
「あんたは母さんの遺灰をこの桜の木の下で、盛大にぶちまけてくれたな。漢字は違えど息子の名前に咲良と名づけたくらいに大好きだった桜の木と一体化できれば本望だろうって」
母さんの大好きだったこの場所を憎き男の処刑台として選択するのに抵抗はあったが。でもこの男のせいでパートのかけもち、更には家庭内暴力と、生地獄を散々味あわせてきたのだから、それと同等の、生きながらにしての地獄を男にも、母さんの眠る前で、体験させてやりたい。
「さぁふたりだけの、夜のお花見といこうか。あんたが殺した母さんの、目の前で」
彼の足元には、口元をガムテープでふさがれ、手足をロープで縛った状態の男が横たわっている。桜の木と男の間には、大きく、そして深く深くまで掘られた穴がある。目をむき、ガムテープの下でなにか必死に喚いている男を無視し、男の背をおもいきり蹴り、穴の中へと、放り込んでやった。そのまま、土を盛大に被せていく。
やがて男の姿が、土で見えなくなった。
その真上に寝転び、男の悲痛な声が途絶えるまで。男が息、絶えるまで。
彼は夜のお花見を、楽しんでいた。
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