★水族館の男

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★水族館の男

 そのお客さんはよく、とある大きな水槽の前で、その生物を何時間も、飽きることなくただじっと、眺めていた。 「お好きなんですか?」  言いつつ、飼育員は水槽にむかい、指を指す。 「ええ。好きですね。と言っても俺がこいつを好きになったのは、つい最近のことでして」 「かっこいいですよね。僕も子どもの頃から好きで。そんな気持ちがこうじて、水族館の飼育員になったくらいで。お客様はなにか、好きになられたきっかけでも?」  この人と仲良くなりたいかも。  だって毎週の休日にこの水槽の前に立っては、何時間も黙って、熱心に眺めているのだから。  そんな高揚さえみせる飼育員の横で、男は飼育員の方をふり返ることなく、目の前の巨大な水槽で、巨大を気のむくまま眺める男はやがて、ぽつりと漏らした。  飼育員にだけ、聞こえる囁きで。 「憎きあいつを、生きたままで食して、生地獄を味あわせつつ殺してくれた。俺にとっては命の恩人の、仲間だから」  想像とは斜め上の、全く違う男の言葉に呆気にとられる飼育員の視線には構わず。  引き続き男は、(さめ)水槽をまた熱心に、眺め始めた。
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