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最後の晩餐
「通り魔の犯行らしい。まだ若いのに気の毒だよ」
彼女のお葬式で、そんな話が漏れ聞こえてきた。
「この度はお悔やみ申し上げます。娘さんと、お付き合いさせて頂いてました」
涙と嗚咽でくしゃくしゃの顔の彼女のご両親に、彼は深々と頭を下げた。
葬式の最中で、彼らの許可を得、彼女の遺灰を少しだけ、譲り受けた。
わずかでも彼女の存在を、この体に感じていたかった。
彼の部屋には、誰にも内緒で撮り続けてきた彼女の写真が、壁に隙間なく張り巡らされていた。
最初は、遠くで眺めて、その美しい姿をフレームへとおさめていくだけで満足できていた。だが次第に、彼女が彼以外の男に笑みを向けていることに耐えられなくなった。
だから。
小瓶を傾け、彼女が満面の笑みでよく食べていたテイクアウトの肉料理にまんべんなく、白い粉を、ふりかけていく。
本来スパイスなどを入れて使うための小瓶には、塩が入れてあった。
それと、少量の、彼女の遺灰。
その傍らには、数日前に通り魔で使った血まみれのままの包丁も、一緒に置いてあった。
「君はもう、僕だけのものだ」
それこそ、骨の髄まで。
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