★マッチング・ファミリーアプリ

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★マッチング・ファミリーアプリ

 ふたりはともに、両親双方の自分勝手な言動に日々苦しめられ、こんな親の元に産まれてこなければ、と葛藤を抱え。  そんなふたりの思いから生まれたのが、マッチング・ファミリーアプリと名づけられた僕だ。  子どもは親を選べない。そんな言葉が、人間たちの世界にはある。もしかしたら、その逆も。  子が親に。親が子に。それぞれに不満や葛藤を抱えた者たちが僕というアプリに登録し、僕のなかで、言葉、あるいは画面越しの対面で交流をする。  当然、実際にそれぞれの実の家族から離れ、マッチングした親と子同士で落ち合い、新たな家族として新たな生活を始めることなど現実的には不可能だ。  人間たちでいう道徳的、倫理的にも問題のある行為なのかもしれない。  だから彼ら、あるいは彼女らは、お互いの日常でのなんでもない事柄や生活での不安、悩みを言葉にし、コミュニケーションをとって、僕のなかで、疑似家族を体験することで、自分たちの周りに広がる現実を忘れる。  そして今、開発者のふたりは、僕のユーザーの本当の家族数組から、訴えられていた。  お前らの作ったアプリのせいで、子どもがめちゃくちゃになったと。  彼らに、ユーザーたちの本当の家庭を壊す気などなかった。  ただひとりでも多く、自分たちのような思いをしている者たちの心を、少しでも軽くしてあげたかっただけなのだ。  だが彼らに、争う意志はなかった。  本当は、開発者のふたりも、そして僕も、心の奥底では願い、望んでいるのだ。  自分たちが開発した、僕というアプリが、この世から必要なくなることを。  だから彼らは裁判とやらのなかで、ひとこと、家族にむかい、言ったのだ。  私達が責任をもって、このアプリを削除致します。そのかわり、約束して下さい。  どうかアプリのユーザーを、あなた方のお子様たちのことを、もっときちんと、みて、話を聞いてあげてください。  あなた達がこの裁判をきっかけに少しでも変わってくれれば、私達がこのアプリを開発した意味がある、と。  僕のいる端末が、ふるえた。  皮肉にもこのタイミングで、またどこかの子と親とのマッチングが、成立したようだった。
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