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1 よろずや
市民の憩いの場として作られた児童公園は、平日の真昼間ということもあって、人はほとんどいない。
「よしこ、どこに行ったんだ……?」
ベンチに座り、写真を見ながら落ち込む男が一人。
名は進藤崇道。
歳は二十代前半くらい。
背は高く、黒髪短髪。ジーンズに半袖Tシャツのシンプルな服装だが、右手中指と、左手親指に少し幅広の指輪をしている。
黙っていれば、いわゆるイケメンなのだろうが……。
「どうして見つからないんだ……?」
写真を握りしめ、しょぼくれている姿は、残念としか言いようがない。
にゃあ。
聞こえた鳴き声に、ばっと顔を上げると、そこには、通りかかった猫の姿がある。
手足の先が白い、茶トラの猫だ。
「よ、よしこー!」
猫に突進しようとしたその瞬間。
「まてまてーネコちゃーん」
間伸びした声と共に、木の上から女の子が一人飛び降りてきて、見事、崇道の背中に着地する。
十代後半くらいの少女で、ボブカットの髪にはブルーのメッシュが入っている。
カーゴパンツに、チューブトップ、ざっくりした白いシャツ。
小柄だが、上から降って来れば、かなりの重さだ。
「ぐぇ!」
崇道は潰されたカエルの如く、地面に突っ伏した。
「およ? タカちゃん。なんで足の下に?」
「…ナミ! お前が踏んだんだろ!」
「あや、そうかいね」
みぎゃあ!
「「あ」」
茶トラの猫がその場から逃げ出してゆく。
「よしこー!」
あっという間に見失ってしまった。
「やっと見つけたのに……」
「また見つかるってぇ」
「お前のせいだろうが!」
「着地するとこにいた、タカちゃんが悪い」
言い合う二人は、幼馴染か兄妹のようである。
「こんな事してる場合じゃない。待ってろよ。よしこ!」
決意も新たに、崇道が振り返った瞬間。
今度はぶつかってきた何かに押し倒される。
「おわっ!」
「す、すみません!」
ぶつかってきたのは、制服姿の少女だった。
「……厄日か……?」
「やーい。タカちゃんのへなちょこー」
「うるさい!」
彼女を見た崇道は、すっと目を細めた。
「あれ、君……?」
その時、複数の人が走ってくる足音がする。
「どこに行きやがった!」
「そっち探せ!」
など、少々不穏な言葉が聞こえてくる。
制服姿の少女が、震えている。
「……タカちゃん」
「ああ」
崇道は少女の手首を掴むと、走り出した。
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