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6 家路
夕暮れ時の住宅街を、崇道と唯子は肩を並べて歩いていた。
空は茜色に染まり、夕日が眩い光を放ちながら、そろそろ一日の仕事を終えようとしている。
二人の横を、小学生の集団が誰が一番早く走れるか競争しながら走り去って行く。
どこからともなく漂ってくるのは、カレーの匂いだろうか。
犬の散歩をしているおじさん同士が、どうしたらお小遣いをアップしてもらえるのか、話をしている。
何の変哲もない一日の、どこにでもある日常。
唯子を家に送る届けるため、歩いている崇道の側に、佑もナミもいない。
疲れたからと、さっさと二人とも引き上げていった。
そして、唯子の側にも白星は、もういない。
「崇道さん」
「ん?」
「私、ひどい事、したのかな」
「……それは、俺には何も言えない」
唯子は泣きそうな顔で崇道を見る。
その視線を、崇道はただ静かに受け止めた。
「唯子ちゃんに出来ることは、進むことになった道を、ただ大事に歩く事じゃないかな」
「ただ、大事に……」
崇道は、笑って頷く。
「唯子!」
呼びかけに、唯子が振り返ると、そこには、唯子の父と母が立っている。
「唯子……おかえり」
「おかえりなさい」
唯子は、くしゃりと顔を歪めると、二人の元へと走り出す。
自分達の元へと帰ってきた娘を両親は両手を広げて受け止めた。
「お父さん、お母さん。ただいま……」
抱きしめ合い、手のひらで、全身で、お互いの存在を確かめ合う。
崇道は、一つ息をつくと、その場から歩き出した。
「崇道さん!」
呼びかけに振り返ると、唯子が立っている。
「本当に、いろいろと、ありがとうございました」
崇道は、微かに笑うと、片手を上げてその場を後にしたのだった。
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