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日が暮れると、空には星が散りばめられ、街には明かりが灯される。
昼間とは違う雰囲気が、辺りを包む。
崇道の目の前には、大きな河があり、その向こうには、街の明かりが輝き、河に反射して揺らめく。
ライトアップされた鉄橋が、夜景に独特の味を出していた。
崇道は、河岸にある整備された遊歩道をゆっくりと歩く。
よろずやには、何だか足が向かない。
遊歩道に設置された自動販売機で、缶コーヒーを買う。
取り出したコーヒーを、何気なく手で転がしながら欄干に近づき、両肘を預ける。
「家族、か」
崇道は、唯子に親はいないと言ったが、正確には、いるだろうが会った事が無いだ。
『森羅万象』という言葉がある。
この世に存在する数限りない全てのもの……万物や事象を表す。
その言葉から名付けられた『万象寮』と言う機関がある。
この国に、遥か彼方昔から存在している。だが、政府に隠され、決して表に出る事はない。
妖や、神、呪術、占術など、人知の及ばぬ様々な事象に対する調査や対応、そして研究を主とした機関。それが、万象寮だ。
もちろん、柱宿りも研究の対象に入る。
崇道は、そこで生まれ、そこで育った。
進藤崇道。
本来は、『神導崇道』と書く。
柱宿りは、滅多に起こらない奇跡だ。
だが、神に好かれやすい血筋というものは存在する。
その血筋の者同士で子を成したら、どうなるのだろうか?
崇道は、物心ついた時、すでに万象寮の中にある一室で生活していた。
教育と食事、適度な運動は与えられていたが、本やゲーム、テレビといったものには一切、触れる事なく育った。
理由は、柱宿りの「力」はあまりにも強すぎるため、宿った子供の感情がきっかけで暴走してしまわないよう、正しく管理するためだ。
表向きは。
神の力は、使い方によっては、とても危険なものだ。
兵器や暗殺。そういった用途にも使えてしまうほどに。
当時、不穏な動きがある事に気づいたのは、万象寮随一の術者であった佑だった。
それを聞いた崇道は、十八歳になった時、佑と浪姫と共に万象寮から脱走したのだ。
浪姫の力を使って。
そして、新たな居場所として佑が用意してくれたのが、よろずやだ。
今のところ、万象寮に見つかった気配はない。
だが、絶対に大丈夫だという保証もない。
崇道は缶コーヒーを開け、一口飲む。
今日は、いつもより苦く感じるのは気のせいだろうか。
崇道はあの日のことを、後悔した事はない。
だが、唯子に会って、思ってしまったのだ。
もしも、普通の家庭に生まれていたなら?
何か、違っていたのだろうか。
違う生き方が、あったのだろうかと。
わかっている。
「もしも」など、存在しない。
崇道が唯子に言った言葉。
『進む事になった道を、ただ大事に歩く事』
それは、よろずやに来たばかりの頃、様々な不安に押し潰されて泣く崇道に、佑が言った言葉だ。
崇道は一気に缶コーヒーを飲み干すと、欄干を離れてゴミ箱に捨てる。
一度、大きく深呼吸すると、歩き出した。
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