1 よろずや

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 少女の手を引いて、走り出した崇道とナミは、タコが大きく口を開けた、 トンネルのようになっている遊具に駆け込む。  壁に沿ってしゃがむと、崇道は入り口に向かって、右手をかざす。  『(いん)密封(みっぷう)』  発した言葉に応じて、崇道の右手中指にしていた指輪から薄く光の膜のようなものが広がる。  入り口いっぱいに広がったかと思うと、何もなかったかのように消えた。  そこへ、バタバタとした足音が迫ってくる。  崇道とナミは、人差し指を口の前に立てる。  少女は震えながらもこくこくとうなづいた。    「くそっ!どこへ行った!」  ザリザリと砂を踏む音が、入り口に迫る。  「ここか!」  男が一人、入り口を覗き込む。  「ひっ……」  少女が思わず声をあげそうになり、ナミが少女の口を手で覆った。  しかし、男は中を見たにも関わらず、  「ちっ!」  と吐き捨てて、どこかへ行ってしまう。  中に、崇道とナミ、そして追いかけていたであろう少女がいたのに。  動き回っていた人の気配が遠ざかると、張り詰めていた空気が緩む。  「まだ油断はできないけど、とりあえず、何とかなったかな」  崇道は、改めて少女に向き合う。  「ケガは?」  「あ、し、してないです。どこも」  怯えたように答えたきり、少女は黙ってしまう。  警戒、不安、とりあえず助かった安堵と、さっきの出来事に対する疑問等が心で渦巻いて、どうにも出来ず、パニック状態なのだろう。  崇道は、後ろ頭を右手でガシガシとかく。  「あ〜。とりあえず、自己紹介かな。俺は崇道。進藤崇道」  「私はナミでーす」  「……田城唯子(たしろゆいこ)、です。あの…進藤さんは……」  「崇道でいいよ」  「あ……崇道さん達は、何をしている人なんですか?」  「「よろずや」」  「よろず……や?」  崇道とナミは、うんうんとうなずく。  「そうだよ〜。お年寄りのお買い物代行とか、お話し相手や掃除」  「飼っている犬の散歩や、迷子になった猫の捜索……と、まぁ、何でもやる、便利屋っていうか、何でも屋っていうか、そんな感じかな」  「なるほど……」    ナミが、崇道に、すすっとよる。  「タカちゃん、この子って…」  「……ああ。『柱宿(はしらやど)り』だよな」  「だよねぇ。だけど、本人良くわかってないっぽい……?」  唯子が、ぴくりと反応する。  「何か、何か知っているんですか!!」  「あ〜」  「教えてください!!急に追いかけられて、怖かったんです。すごく怖かったんです!だから、何が起こっているのか、知りたい!!」  崇道は再び入り口に右手をかざす。  『開封(かいふう)』  さっき張った光の膜が、すぅっと消えていく。  「ナミ、とりあえず、安全確保」  「らじゃー!」    ナミは入り口から外へ出ていく。  崇道は、スマホを取り出すと、とある番号をタップする。  「あ。(たすく)さん?俺。……会ってもらいたい子が居るんだ。これから、連れて行きたいんだけど……ちょっと?」  そこで、ちらりと唯子の方を向いて、ふと、笑う。  「そこは問題ないよ。大丈夫。うん……それじゃ」  通話を切ると、崇道は改めて唯子をしっかりと見つめる。  「俺らじゃ説明上手くできないから、ちゃんと説明出来る人のところに連れていくよ」  崇道はそう言って唯子に手を差し伸べる。  差し出された手を、唯子は取ったのだった…。    
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