1 よろずや

2/5
前へ
/23ページ
次へ
 三人はタコが大きく口を開けた、トンネルのようになっている遊具に駆け込む。  崇道は入り口に右手をかざした。  『(いん)密封(みっぷう)』  言葉に応じて、崇道の右手中指にしていた指輪から光の膜が広がり、やがて何もなかったかのように消え失せる。  そこへ迫る足音。  崇道とナミは、指を口の前に立てる。  少女はこくこくとうなづいた。    「どこへ行きやがった!」  足音が、入り口に近づく。  「ここか!」  男が一人、入り口を覗き込んだ。  「ひっ……」  少女が思わず声をあげそうになり、ナミが口を手で覆う。  しかし、男は、  「ちっ! 」  と吐き捨てて、どこかへ走っていった。  中に、崇道とナミ、そして追いかけていたであろう少女がいたのに。  気配が遠ざかると、張り詰めていた空気が緩む。  「とりあえず、何とかなったかな」  崇道は、少女に向き合う。  「ケガは?」  「あ、してないです。どこも」  答えたきり、少女は黙ってしまった。  いろいろな事が起こって、パニック状態なのだろう。  崇道は、後ろ頭をガシガシとかく。  「とりあえず、自己紹介かな。俺は、進藤崇道」  「ナミでーす」  「……田城唯子(たしろゆいこ)、です。あの、進藤さんは……」  「崇道でいいよ」  「あ……崇道さん達は、何をしている人なんですか?」  「「よろずや」」  「よろず……や?」  崇道とナミは、うんうんとうなずく。  「そうだよ〜。お年寄りのお買い物代行とか、お話し相手や掃除」  「犬の散歩や、迷子になった猫の捜索……と、まぁ、何でもやる、便利屋っていうか、何でも屋っていうか、そんな感じかな」  「なるほど……」    ナミが崇道に、すすっとよる。  「タカちゃん、この子って……」  「……『柱宿(はしらやど)り』だよな」  「だよねぇ。だけど、本人よくわかってないっぽい……?」  唯子が、ぴくりと反応する。  「何か知っているんですか!」  「あ〜」  「教えてください! 急に追いかけられて、すごく怖かったんです。だから、何が起こっているのか、知りたい!」  崇道は再び入り口に右手をかざす。  『開封(かいふう)』  光の膜が、すぅっと消える。  「ナミ、とりあえず、安全確保」  「らじゃー!」    ナミは入り口から出ていく。  崇道は、スマホを取り出すと、とある番号をタップした。  「(たすく)さん? 俺。……会ってもらいたい子がいるんだ。これから、連れていくから……ちょっと?」  そこで、ちらりと唯子の方を向いて、ふと、笑う。  「問題ない。大丈夫」  通話を切ると、崇道は改めて唯子を見る。  「ちゃんと説明出来る人のところに連れていくよ」  崇道は唯子に手を差し出した。    
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加