1 よろずや

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 崇道、ナミ、唯子の3人は、とある店の前に立っていた。  二階建て、木造の日本家屋(かおく)で、一階は店舗になっている。  引き戸になっている店の入り口の右には、厚みがある木の板に達筆な筆文字で「よろずや」と書かれた看板。  その看板の横には、透明なクリアファイルに入れられたA4サイズの白い紙に「買い物から掃除、何でもやります!」と、妙に勢いのある字で書かれたものが、貼り付けられている。  崇道は、店の引き戸を慣れた手つきで右に引く。  ガラガラと、木枠にガラスが嵌め込まれた扉が独特の音色を奏でた。  崇道とナミに続いて、唯子が店の敷居を跨いだ瞬間、空気が変わった気がした。  これだけ年季の入った建物のはずなのに、綺麗で清浄な森林に足を踏み入れたかのような感覚だ。  店舗自体はそれほど広くはない。  向かって右側には、木で出来た棚が設置してあり、骨董品のようなものが並べられていて、左側には本棚が設置してあり、古書のようなものがぎっしりと詰まっている。  正面には、木製のデスクが置いてあって、そこにも本や物が乱雑に置かれていた。    「佑さん?おーい?」  左側の本棚の奥に、別の部屋へと続く入り口があったようで、1人の男性が姿を現す。    歳の頃は30代半ばくらい。  白い長袖のシャツに、年季の入ったゆとりのあるジーンズ。  足元は雪駄(せった)である。  癖のない黒髪。  目元にはシルバーフレームのメガネが光を放っている。    佑と呼ばれた男性は、唯子を見て、その右下あたりを見ると、目を細めた。  「何の気配かと思ったら、そういうことか…」  ナミは、ひょいひょいと軽い足取りで、佑に近づく。  「ねーねー、たすくん。やっぱりこの子って…」  「ああ。柱宿り、だね」  その言葉に、今まで緊張で固まっていた唯子が反応する。  (柱宿り……さっきも聞いたけど、一体どういう意味なんだろう……)  崇道が、後ろ頭をガシガシとかく。  「……やっぱりか……」  一瞬佑は、すっと冷えた目を崇道に向けた。    「………どうして、連れてきた?」  「仕方ないだろ。放っておくわけにはいかないし」  「……それもそうか」  佑は、にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべる。  「こんにちは。お嬢さん。詳しい事情、聞かせてくれるかな?」  
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