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本棚に追加06. 棣鄂之情
黙り込んだ俺にそれ以上何も言おうとはせず、兄ちゃんはお盆を持って静かに立ち上がった。
「お前、どうせまだ寝つけないんだろ。一杯付き合えよ」
「え……」
てっきりそのまま部屋を出て行くと思ってたのに、あまりにも意外な申し出に間抜けな声を返してしまう。布団の上で座ったままぽかんと兄ちゃんを見上げている俺を見下ろして、兄ちゃんは歯を見せてにっと笑った。
「たまに母さんと二人で晩酌するんだよ。せっかく久しぶりに帰ってきたんだから、今日くらいは悟が相手してくれ」
「でも俺、明日早いし……」
「少しくらいならいいだろ。寂しいバツイチには話し相手が必要なんだよ」
離婚したことを打ち明けていくらか気が晴れたのかそれともただのヤケクソなのかは分からないけど、兄ちゃんの表情は明るい。まだ疲れたような笑い方をしてるのは変わらないが、少なくとも今日ここに来た時に見た顔よりはだいぶマシだ。やっぱり、結構いっぱいいっぱいだったのかもしれない。
「……じゃあ、少しだけ」
「うん。ありがとな」
そんなに溜め込む前に発散すればいいのに、そういうことを話せる人が一人もいないのだろうか。
母ちゃんは事情を全部知ってるんだろうけど、この様子だと心の中で思っていることの半分も話せてないんだろう。赤の他人だなんて思ってないとか言ったくせに、自分と俺たちの間に線を引いてるのはいつも兄ちゃんの方だ。優しい笑顔の裏でどんなことを思っているのか、子供の頃から兄ちゃんは絶対に見せてくれない。立場上そうするしかないというのは分からないでもないけど、それだけが理由ではないような気がする。
*
「悟と二人で飲むのは、これが初めてかな」
居間で食卓として使っている大きなちゃぶ台はかなり年季が入っているみたいだけど、長い間とても大切にされてきたのであろうことは一目で分かる。誰もいなくがらんとした部屋の中を座布団に座ってぼんやりと眺めていると、子供の頃にここで過ごした時間をふと鮮やかに思い出した。俺はまだ小学生で、夏休みの夜に家族みんなでメシを食べた後、畳に寝そべって兄ちゃんと一緒にテレビを見てるうちにうとうとしてきて、母ちゃんに早く風呂入れって言われて。
なんてことはない、特別なものは何もない毎日だったけど、今になって思うとあれは確かに特別で大切な日々だった。きっとその時間の中にいる時は分からないもので、そこから出て初めて分かるものなんだろう。大嫌いだと思っていたこの家で過ごした時間を、こんなにも大切に思っている自分も。
「そう言えばそうかもね」
食卓の上にはよく冷えた缶ビールがふたつと夕飯の残りのから揚げ、あと兄ちゃんが酒のつまみとして用意しておいた揚げ出し豆腐ときゅうりのたたきが盛り付けられた小皿が並んでいる。
俺は料理は一応人並みにできるけどあらかじめ何を作るか決めてからでないとダメなタイプで、こんなふうに冷蔵庫の余りものだけでサクッとつまみを作るみたいなことができる人を心底すごいと思ってる。多分、俺と兄ちゃんではレシピの引き出しの数が桁違いなのだろう。もっとも、ここ最近は暑さで作るのも食べるのも面倒くさく冷麺とかコンビニ弁当ばっかりだったけど。
「兄ちゃんって、誰に料理教わったの? 昔からよく作ってたけど」
「ばあちゃんだよ。子供の頃はすごいばあちゃんっ子でな、いつもメシ作るの手伝ってたんだ」
「ふーん、そっか。だから和食が得意なんだね」
「得意ってほどでもないよ。酒のつまみみたいなものしか作れないし」
「出た。その発言自体が料理得意な人のセリフなんだって」
「悟だって作れるだろ」
「俺は揚げ出し豆腐なんて作ったことねーよ」
兄ちゃんのおばあさんに会ったことはない。父さんと母ちゃんが知り合うよりも前、兄ちゃんがまだ小さかった頃に亡くなったと聞いている。
俺は兄ちゃんの家族や生い立ちについて、本当はあまりよく知らない。聞けば詳しく教えてくれるであろうことは知っていたけど、それは何か違う気がしてた。同じように兄ちゃんも俺について何も聞いてこないから、もしかしたら兄ちゃんも同じように思ってるのかもしれない。
アルコールのせいなのだろうか、思っていたよりもずっと気楽に話ができる。
子供の頃はこうして酒の力に頼ることができなかったというのも、何かと気苦労が絶えなかった原因のひとつなのだろうと思う。なんだかんだ言ってもやっぱり子供より大人の方が圧倒的に楽だ。
「母ちゃんの退院っていつだっけ」
「来週の月曜だったかな。心配しなくても、俺がちゃんと迎えに行くから大丈夫だよ」
「いや、俺も行くよ。まだ母ちゃんの顔見てないし」
「そうか、じゃあ小椋さんには一言言ってから出てこいよ」
「分かってるって」
から揚げを頬張りながらちらりと視線を上げると、兄ちゃんは何故かおかしそうに笑っている。なんだ、もう酔ってんのかな。
「なんだよ?」
「いや、何だか変な感じだなって思って。見た目も喋り方も悟なんだけど、酒飲んでるってだけで俺の知らない人みたいだ」
「意味分かんねーし」
「悟はもう大人なんだなってことだよ」
兄ちゃんの頬はほのかに赤い。一緒に酒を飲んだことがないから今まで知らなかったけど、もしかしてあんまり酒に強くないのかもしれない。明日に響くかもしれないし、そろそろやめさせた方がいいかな。そう思って箸を置いたのとほとんど同時に、兄ちゃんは手にしていたビールの缶をことんと置いた。
「まさか悟がこっちに帰ってきてくれるなんて思ってなかったからさ。悟がこの家のことをすごく嫌がってるのは分かってたから、もう二度と会えないかもしれないって思ってた」
ちゃぶ台に頬杖をついている兄ちゃんの瞼は、眠そうに半分下りてきている。俺の顔はきっと見えていないのだろう、分かっていてもひどく居心地が悪い。今の自分の顔を兄ちゃんに見られたくない。
「……その割には、ずいぶんあっさりと送り出したよな。ここ出る時」
「そりゃそうだよ。悟が自分で決めたことなのに、行くななんて言えるわけないだろ」
「行ってほしくなかったの?」
「まあ、そうだな……正直言うと、嫌だったよ」
意外だった。そんなふうに思っていたなんて、今までただの一度も聞かされたことはなかったのに。
よっぽど間抜けな顔をしていたのだろうか、俺を見て兄ちゃんはくつくつと笑い出した。
「たった一人の弟だったから、できるならずっとここにいてほしいと思ってたよ。でも悟が出て行くって言った時、やっぱり俺と悟は違うんだなって思い知らされたって言うか……」
「なにが」
「お前は何にでもなれるけど、俺はこの家の当主にしかなれない」
兄ちゃんはまたわずかにまつ毛を伏せて、俺から目を逸らした。
「生まれた時からずっとそれが当たり前だったけど、悟が弟になってから疑問を感じるようになったんだ。同じ家の子供なのに、どうして自分だけがこんなに息苦しい生き方をしなきゃならないのかって」
さっき置いたばかりの箸にまた手をつけて、小皿に残っているきゅうりのたたきをつまんで口にした。きゅうりを噛む度にぽりぽりと音がして、その音がまるで部屋中に響いているようだと錯覚するほど家の中はしんとしている。
それ以上は何も言わず、兄ちゃんは黙ってビールをぐいと流し込んだ。
自分と俺たちの間に線を引いてるのはいつも兄ちゃんの方だ。優しい笑顔の裏でどんなことを思っているのか、子供の頃から兄ちゃんは絶対に見せてくれない。
俺は今までそんなこと知ろうともしていなかったけど、兄ちゃんはどうしてそんなにも頑なに胸の内を見せようとしないのか、その理由が少しだけ分かったような気がする。
この家の人間にも、よそ者の俺にも、絶対に話せない。誰かに甘えたり弱音を吐いたり、兄ちゃんには子供の頃からそういうことを話せる人が一人もいなかったんだ。
俺にはきっと分からない。だから、軽率に聞いていいことじゃないのも知ってる。
頭では分かってるのに、今の兄ちゃんを放っておくことなんてできなかった。
「兄ちゃんは、家の仕事が嫌なの? 本当はやりたくない?」
それまで頬杖をついたままそっぽを向いてぼんやりしていた兄ちゃんの肩が、ぴくりと小さく揺れた。はぐらかされるかな、そう思った時、ほとんど聞き取れないほど小さな声が返ってくる。
「よく……分からない」
「それくらい分かるだろ、自分のことなんだから」
「嫌とかやりたくないとか、そういうふうに考えること自体なかった。俺の気持ちは関係なくて、やるしかないって決まってることだからさ」
「今もそんなこと思ってんの?」
「分からない」
「……」
はぐらかしているわけではなくて、本当に分からないのだろう。今の兄ちゃんが適当に答えているわけではないことは見れば分かる。
俺がこの家に来なければ、兄ちゃんは何の疑問も持たずにこの家を継ぐことができたのかもしれない。それがいいことなのかそうでないのかは別として、少なくとも兄ちゃんは今みたいに苦しまなくて済んだかもしれないのに。
「悟は、何かやりたいことがあったから東京に行ったんだろ。だからずっと羨ましかったんだよ」
今までそうしてきたみたいに、ノリと笑顔だけで切り抜けられたらどれだけ良かったか。
どうせ人は他人を見た目でしか判断できない、それでいいと思ってた。自分が胸の内で思っていることなんて、誰かに分かってもらおうなんて思ったことはなかった。
それなのに今の俺は、こんなにも知ってほしいと思ってる。分かってもらいたいと。
「ないよ、そんなもの」
言ってからそっとビールを口に含む。兄ちゃんは目を見開いてこっちを向いた。
「え……」
「あったら今更のこのこ帰ってこない」
「じゃあ、どうして出て行ったんだ?」
「……何か見つかればいいなって思って、それだけ。結局何も見つけらんなかったし、あんなに人がうじゃうじゃいるとこで頑張るのも疲れたから、逃げてきたんだ」
「小椋さんのとこで働くことにしたのは、何か理由があるんだろ?」
「地元で俺みたいなどうしようもないのを拾ってくれそうなところなんて他になかったから。仕事選べるような才能も資格も何もないから、他に行くところがなかった。小椋さんは父さんの従兄弟だし、俺が雇ってくれって頼めば断られることもまずないと思って」
「そうか……」
何故か兄ちゃんは小さくため息をついて、それっきり黙り込んでしまった。
変な気分だ。今までずっと言えなかったのに、打ち明けてみると大したことではなかった気がしてくる。実際、取るに足らないことで悩んでいたのかもしれない。アルコールの威力もあるんだろうけど、明らかにいつもより気が大きくなっている。
「やりたいことなんて、二十年ちょっと生きたくらいで見つかる奴なんかほんのひと握りなんだよ。一生見つからないまま死ぬ人だって山ほどいる。むしろ、生きてるうちにそんなもの見つける奴の方が少ないんだ」
自分で自分に言い聞かせるようにまくしたてると、兄ちゃんは少し困ったように笑った。
「そんなことはないんじゃないか」
「少なくとも俺は、兄ちゃんよりは広い世界を見てきたつもりだよ」
「それは確かにそうだな。世間知らずは俺の方か」
まだ小皿に半分だけ残っていた揚げ出し豆腐に兄ちゃんが箸をつけるのを見ながら、座布団の上でゆっくりと座り直す。
「悟も真希も、やりたいことや目的があって、自分の足でそれに向かって歩いてるんだなって思うと、すごく自分が恥ずかしかった。俺は生まれた時からただ言われたことを言われたとおりにやるだけで、自分で何かを選んだりやりたくないことを断ったりしたことはなかったから」
なるべく兄ちゃんの目を見ないように、身体の向きを少しだけ横にずらした。
「……結婚したじゃん、真希さんと。自分の意志で」
「そうだったかな」
「なんだよ」
「本当に俺の意志だけでしたことなのか、正直言うと自信ない。真希のことは好きだったけど、家とか将来のこととか世間体とか、そういうものが全くなかったわけじゃないし」
「そんなの誰だってそうだよ。好きってだけで結婚する方がレアケースだって」
「……はは」
ちらりと視線だけを兄ちゃんの方に向けると、兄ちゃんも俺を見ていない。自嘲気味な笑顔を浮かべて、箸に目を落としている。
「悟は大人だな」
「一般論だよ」
「俺はまだ、そういうふうには考えられないんだ。三十過ぎたオッサンがみっともないな、だから真希にも愛想尽かされたのかもしれない」
本当は真希さんにやりたいことがあったのかもとか、店の奴らに陰口叩かれてうんざりしたのかもとか、考えられる理由はいくつもあるけど、兄ちゃんと真希さんが離婚するに至る決定打となった本当の理由はまだ知らない。それは二人にしか分からないことで、俺がどんなに憶測を並べても俺には永遠に分かることはないのだろう。
俺といる時の兄ちゃんと、真希さんといる時の兄ちゃんが全く同じだったのか、それすらも俺は知らないのだ。俺はきっと兄ちゃんのことを半分も知らない。
「もう一本飲んでいい?」
気まずい沈黙を破るように、空になった缶を小さく振って示すと、兄ちゃんはやっと顔を上げて俺を見てくれた。
「ああ、うん。俺も飲むから、二本持ってきてくれ。冷蔵庫の下の方に入ってる」
「分かった」
そっと立ち上がって、空き缶と空になった小皿を持って台所に向かう。流しには兄ちゃんがつまみの準備をしていた時に使ったまな板や包丁が置いてある。持ってきた小皿を水に浸していると、居間の方から兄ちゃんの声が飛んできた。
「そうだ、すっかり忘れてた。そのへんにサバの缶詰置いてないか?」
「えっと……あ、あった」
調理台の端に備え付けられている木の戸棚には調味料や乾物などのストックが雑然としまってあって、その下の方に缶詰がいくつかある。おそらく兄ちゃんが言ったのはこれのことだろう、子供の頃よく食べていたサバの味噌煮だ。
「それも食っていいよ。悟、好きだっただろ」
「いいの? じゃあもらっとく」
もしかして、俺のために買っておいてくれたのかな。
他にもつまみになりそうなものが何かないか探してみようと思ったけど、もうここは俺の家じゃないんだから勝手に漁るのは良くないか。とりあえず冷蔵庫から出したビールとサバ缶を持って居間に戻ると、兄ちゃんはまだ頬杖をついてぼんやりしている。
「兄ちゃん、眠いんだったらもう寝なよ。俺もこれ食ったら寝るから」
持ってきたものを置きながら座る。兄ちゃんの目はどう見ても眠そうだ。今にも閉じてしまいそうなほど瞼が下りているその目は、俺がちゃぶ台に置いたサバの味噌煮の缶詰を見た途端ふと笑った。
「……昔は、よかったな」
「なにオッサンみたいなこと言ってんの」
「オッサンなんだよ、もう」
すると、そのままゆっくりと崩れるようにちゃぶ台に突っ伏して寝てしまった。珍しい、いつも姿勢正しくいる兄ちゃんがこんなふうになるなんて。やっぱり相当眠いんだろう、少し強引にでも部屋に引きずっていくくらいした方がいいかもしれない。
「兄ちゃん、もう部屋に……」
仕方なく兄ちゃんの横にしゃがみ込んでそっと肩に手を置いた時、そのあまりの細さに驚いて思わず手を離してしまった。
兄ちゃんって、こんなに華奢な肩だったっけ? 痩せてるとか小柄とかってレベルじゃないような気がする、まるで女みたいだ。兄ちゃんはいつも家では浴衣を着てるけど、それにしたってさっきのは大人の男の肩を触った感覚とはとても思えない。
「戻りたいなあ、昔に」
顔を伏せたまま、兄ちゃんのか細い声だけが静かに立ち昇ってくる。それは初めて聞く、弱々しい声だった。
「悟がまだ小学校行ってた時に、よく宿題教えてただろ。夏休みの宿題が終わらないってお前に泣きつかれて、夜遅くまで手伝ってやった時のこととか……最近よく、夢にみるんだ」
「……俺はもう、あんなの二度とやりたくない」
「はは、俺だって嫌だよ。でもな、時々無性に戻りたくなる」
鼻をすする音がした。もしかして今、泣いてるのかな。
『男だろ。泣くな』
初めてこの家に来た日のことを、不意に思い出した。
大人たちがこれからのことを話し込んでいる間、俺と兄ちゃんは二人で近くにある小さな港へ海を見に行った。俺よりずっと大きな手に掴まって連れて行ってもらった港から見た、どこまでも続く大きな海。遮るものが何もない、あまりにも広くて遠い海が、あの頃は少し怖かった。
あの時の俺はこれから先に待ち受けている新しい生活がどんなものなのか全く分からなくて、でも俺と母ちゃんがあの家で歓迎されていないことは分かっていて、ただただ不安で怖かった。だけど母ちゃんにそんなこと言えるはずがなくて、ずっと黙って言われるがままあの家に行った。
そこで初めて会った兄ちゃんが笑って手を差し伸べてくれた時、それまでずっと張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れてしまったのだ。
周りに大人たちのいない、俺と兄ちゃんしかいないあの港からどこまでも続く大きな海を見た時、俺は声を殺して泣いた。それで、その時、兄ちゃんは。
「男だろ。泣くな」
あの時兄ちゃんに言われた言葉を、ゆっくりと口にした。
あの時兄ちゃんがそうしてくれたように、兄ちゃんの肩を抱き寄せて。
きっと兄ちゃんはあんなこともう覚えてない。そんなこと分かってる、それでもいい。
兄ちゃんにとっては取るに足らない、記憶の端にも残らないような些細な出来事でも、俺にとってはその全てが大切で、忘れられない思い出だ。
胸の中で兄ちゃんが微かに身じろぎして、また鼻をすする音が聞こえてくる。兄ちゃんは抵抗しなかった。
「……悟は、強い子だな」
「兄ちゃんが弱いんだよ」
「ごめんな、頼りない兄ちゃんで」
「そんなこと言ってんじゃない」
こんなに華奢な肩で、こんなに細い身体で、今までずっと一人で堪えてきたのか。誰も頼れない、誰にも打ち明けられない気持ちを抱えたまま。
どうして今まで気付かなかったんだろう。子供の頃からずっと見てたのに。
「……帰ってきてくれて、ありがとう」
鼻声でそう呟いた兄ちゃんの声は震えている。肩を抱きしめる腕にぎゅっと力を込めると、兄ちゃんの細い指が頼りなく俺の腕を掴んだ。
「悟が俺の弟で、本当によかった」
弟。
それを今どうして言ったんだろう。
俺はいつもそうやって、兄ちゃんの何気ない言葉や態度の中に意味を探してる。そこには大した意味なんてないと分かってるのに。

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