海の見える部屋

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ex6. 君のSPLASH (3/4) 「あっ……ん、はぅ……っ」 「……っ、う……」  挿れた瞬間、危うくイってしまうかと思った。相変わらずさんごの締めつけは強くて痛いくらいだ。目の前でさんごは大きく息を飲んだ。 「あ、あ……っ、うぅ……」  いつもと比べると、明らかに今日はさんごの中を充分に解せていない。俺以上にさんごの方が待てそうになかったらしく俺の手を借りずに自分で済ませてしまったのだが、やっぱりどう見てもつらそうだ。 「無理、すんなって」 「……っ、して、ない」  さんごの目はわずかに涙を湛えている。頬が上気したように赤くなっていて、その必死に堪えている表情を俺は不謹慎だと分かっていてもたまらなく愛おしいと思った。こんなにも懸命に俺を受け入れようとしてくれている、その事実だけであっけなく達してしまいそうになるのを踏みとどまるのでやっとだ。  さっきさんごが言っていた俺の表情を見ただけでイきそうになるという心理、もしかしたら俺もよく分かるかもしれない。 「……なんば、さん……」  震える腕が首に回され、さんごがぎゅっとしがみついてくる。耳にさんごの灼けつくような熱い吐息が触れて、腰の奥がぞくりと震えた。  まだ、さんごの中は俺に馴染んでいない。もう少しこのままじっとして待たなくては。分かってはいるけど、今すぐにでも腰を動かしたくてたまらない。  早く、こいつの中をめちゃくちゃにしたい。過去の男のことを思い出す余裕なんてなくなるくらい、さんごの中に俺の形をくっきりと残してやりたい。 (自分はそういうこと考えるタイプじゃないって、思ってたんだけどな……)  さんごの背中に両手を回して抱きしめると、さんごの中の締めつけがほんの少し強くなった。 「っ、さんご……キツい」 「だってぇ……っ、難波さんの、すごっ……い、おっきい……か、ら」  このやりとりもこれで何度目だろう。じゃあ一旦抜くか、と言ってもどうせ嫌だって断られるんだよな。ここまで懸命に俺を受け入れようとしてくれる気持ちは本当に嬉しいけど、さんごの身体に過剰な負担をかけていたら意味がない。 「俺って、そんなデカいかな。普通だと思うんだけど」  少しでもさんごの意識を別のことに向ければ痛みが和らぐかもしれない。そう思いわざととぼけた口調で聞いてみる、きっとさんごは『調子に乗るな』とか『リップサービスで言ってやってんのを真に受けるな』とか言い返してくるだろう。  だが、予想していた反論は返ってこない。代わりにさんごは俺にしがみつく腕に更に力を込め、耳元でほとんど聞き取れないほど小さく囁いた。 「……こんなおっきい人、難波さんが初めてだよ」  男って単純だなあと、自分で自分にあきれてしまう。その言葉にあっさり調子づいた俺の愚息に困惑したのか、さんごはもじもじと腰をよじっている。 「ちょっ、難波さん……なんで今のでまた硬くなってんの」 「ば、バカ。お前が変なこと言うから」 「変なことって、オレ何も……」  言っている途中で気が付いたらしく、さんごは途中で口をつぐんでしまう。  微妙に気まずい空気を振り払うように、さんごの腰を後ろからぽんぽんと優しく叩いてみる。 「それより、まだ痛いか?」 「……ちょっとだけ」  まだダメか。気持ちだけならいくらでも待てるんだけど、身体の方はそろそろ限界が近づいてきている。やっぱり一旦抜いた方がいいかもしれない、そう思った時、不意にさんごはそっと身体を離して俺を見た。 「いいよ、もう……動いて」 「まだ痛いんだろ。もう少し慣らしてから」 「だって難波さん、これ以上待つのキツいでしょ」 「……まあ、うん」 「ゆっくりね。いきなり全部、挿れないで……ちょっとずつなら、大丈夫だから」  まるで懇願するような言い方だった。俺を見つめる目も不安そうに揺れている。  深く頷きながら、そっとさんごの髪を撫でた。 「分かってる。少しでも痛かったら言えよ、すぐやめるから」 「……ん」  珊瑚はとても繊細な生き物だ。ただ金かけて環境を整えてやればいいなんて、そんな簡単なものではない。  水が汚れてるなんてもってのほか、温度や水質も逐一チェックして、変な病気にかかったりしてないか、注意してよく見てなきゃいけない。そんなこと、アクアリウムを自分で作ることに憧れていただけの時は知らなかった。  大事にするって口で言うのは簡単だけど、実際やってみると本当に大変だし気苦労が絶えない。  だけど、不思議なんだ。こんなに金も手間もかかって面倒くさいのに、いくら眺めていても飽きない。それどころか、目が離せない。朝から晩までずっと眺めていたって全然足りない。  こんなに綺麗な姿を見せてもらえるのは俺だけなんだって思うと、それだけで誇らしくて胸がいっぱいになる。それでもっと大事にしたいって思う。 「あっ、んあっ……あぅ、なん、ば、さん……っ」  ゆらゆら揺れる。波の動きに応えるように従順に。俺が腰を突き上げるように揺らす度、さんごの前髪の奥で桃色の波が淡く光ってはまた消えていく。ただ痛みを堪えているだけではない、鼻にかかったような声で愛らしく喘ぐさんごの頬は赤く染まっていて、その上を一筋の涙がすうっと滑り落ちていく。 「っ……痛く、ないか?」  そっと涙を指ですくいとると、さんごはまつ毛を伏せてきゅっと下唇を噛んだ。 「んん……っ、うん」 「唇、噛むな。傷になる」 「でも……声、出ちゃうから」 「いいんだよ、出して。我慢しなくていい」 「あっ、ま、まって……! やだ、待って難波さん、ゆっくり……っ」  少しだけ速度を上げて更にさんごの奥へ進もうとすると、さんごは戸惑ったように声を上げながら俺の両肩に掴まってきた。 「さんごの、なか……っ、すっげ、熱い」 「難波さんだって……」  さんごは俺の肩に額を乗せて、浅い呼吸を繰り返している。 「ほら、もっと顔見せろ」  手首を掴んでそっと離れさせると、近すぎる距離で目が合った。涙を湛えた目が揺れて、さんごはすぐに下を向こうとする。俺は咄嗟に片手で顎を押さえてそれを制し、さんごの瞳を真正面から見据えた。 「や……そんな、見ないで」 「さんごの顔、好きなんだよ。だから、もっと見てたい」 「……ばか」  これ以上は無理ってくらい真っ赤な顔で俺を睨んでいる。こんな顔も、見せてくれるのは俺にだけって思っていいんだよな。勘違いでも自惚れでもないって、信じていいんだよな。 「なに、笑ってんの」 「ん? 別に笑ってないけど」 「……なんかムカつく」  突然、さんごの中が俺をきゅうっと締めつけてくる。 「ばっ、バカやめろ。そんな……っ」  ヤバい、危うくイってしまうところだった。っていうか軽くイきかけたかもしれない。  さんごは歯を見せてにっと笑った。 「難波さんの、スケベ」 「……どの口が言うか」 「え、あっ……ちょっと、待って」 「ずいぶん余裕、あるみたいだな」  さっきまでよりも少しだけ奥へと入ると、さんごから余裕の笑みが消えてまた戸惑った表情に変わる。 「やっ、やだだめ、そこ……っ! ま、まって、難波さん、っあ、あっあ、ああっ……んっ」  明らかにさっきまでと声の調子が違う。俺が奥へと入る度、さんごは目をぎゅっと瞑ってわずかだが腰を引こうと身をよじっている。まるで、どこか特定の場所に俺が当たるのを必死で避けているみたいだ。  両手でさんごの腰を少し強く押さえつけて勝手に逃げられないよう固定し、また更に速く深くさんごの中で抽送を繰り返す。 「な、難波さ、や、だめ、ああ……っ! んあっ、あっあっ、だめ……っそこ、はぅ、ああっ」  思ったとおり、さんごは俺の動きに反応して素直に喘いだ。あんなに声が出るのを嫌がってたのに、もう声を抑えることもできないほど溺れてしまっている。 「っ、あ、あっ、難波さん……っ、や、やだ、やだよぉ、そんな、おく、入んない……っあ、んあっ」 「入ってるよ……っん、さんごのここに、俺いるの。分かる?」  さんごの愛らしいへその下に指を這わせると、さんごの身体がピクンと跳ねた。 「な、んば、さん……っの、すごい、ふかくて……あ、あっ! だめ、そんな、はげし……っあっあ、ああっ、んやっ」  自覚しているのかいないのか、さっきからさんごは自ら腰を小さく揺らして俺がそこに当たるよう誘導している。その様があまりに淫らで煽情的で、頭がくらくらしてきた。  くそ、なんて視覚の暴力だ。これで『エッチするのあんまり好きじゃない』だなんて、よく言えたもんだ。 「難波さん、っ、なんば、さん……っ、ああっ」 「え、さんご……っ」  内側からぎゅっと抱きつかれるような感覚。さんごの限界がもうすぐそこまで来ている。  不意にさんごは両手で俺の頬を押さえ、俺の顔を真っ直ぐに見た。今にも泣き出しそうな大きな瞳の中で、戸惑った顔をした俺が揺れている。 「っ……すき。浩介さんが……好き」  身体の奥がずくんと熱く震える。 「お前な……っ、んなこと、この……っ、状況で」  この熱はもう、放出する以外に鎮める術がない。全身の熱さを残さずさんごに放つように、何度も何度もさんごの中を突いた。今まで一度も入ったことがないくらい深いところまで、全部。 「あっ、ああっ、こうすけさん……っ! 浩介さん、好き、すき……っ、っあ、あぅっ」 「ばか、もうっ……言うなって、っく……」  好きと言われる度に腰が疼く。比喩表現ではなく、今なら本当にその言葉だけでイってしまいそうだ。  どうにかして『好き』と言うのをやめさせないと。意識が吹っ飛びそうになるのを必死に堪えながら縋るような気持ちで手を伸ばし、視界の端で俺の突く動きに合わせて揺れているさんごの亀頭を少し強めに握った。 「あっ……! だめ、やだ、ああっ!」  さんごの身体がビクッと跳ねて、喘ぐ声が明らかに高くなった。 「すげ……ぐっちょぐちょ」 「やっ、や……っ、だめ、まって、なんか……っ、んあっ」  さんごは何かを懇願するように俺を見つめたまま、頭をふるふると横に振っている。その目はどこか怯えているように見えなくもない、あまりに刺激が強すぎて戸惑っているんだろう。今のさんごは普段とは比べものにならないほど敏感になっている。 「痛いか?」 「ううっ、ん……っちがう。そうじゃ、なくて……っ」 「じゃあ平気だな」 「だめ、まっ……!」  濡れたさんごの亀頭に手のひらを押し当てて軽く擦ってやると、くちくちと粘り気を含んだ水音が聞こえてくる。 「ああっ! や、やだっ、やだってばぁ……っ! で、ちゃうっ、出ちゃうよぉっ、あっ、ああっ」 「ほら、チンコばっかじゃなくて、こっちにも……っ、集中、しろって」  さんごの亀頭を扱く手を止めずに、またさんごを下から何度も突き上げる。 「んあっ、ああっ! こうすけ、浩介さん……っ、っあ、あっあっ、こう、すけ……っ」 「っ……!」  ああ、くそ。今度は名前かよ。名前を呼ばれただけでイきそうになるなんて、今までの人生において一度も経験したことがない。  どうして俺、さんごの言葉ひとつでこんなに興奮してるんだろう。いつもより敏感になってるのは、さんごだけじゃないのかもしれない。 「こう、すけ、っ、浩介さん……っ、オレもう、だめっ……イっちゃう、イっちゃうよぉ、はぅ……っあっあ、んああっ」  さんごの桃色に染まった頬を透明な雫が滑り落ちていく。俺の肩を掴む指に力が入り、さんごは目をぎゅっと瞑った。 「もう、イっちゃう、いっ……」 「……っ、うん、俺も……っ」  さんごの全身がぶるっと大きく震える。 「……っあ、――ああっ……!」 「く……っ、智也、……っ!」  視界の端で白い飛沫が跳ねた。波と波がぶつかったようだ。  強張っていた脚からゆっくりと力が抜けていく。 「あ……」  乱れた息遣いの隙間で、さんごが震える声を漏らした。 「……ごめん。オレ、また」 「ん……?」  荒い呼吸を繰り返しながら顔を上げると、さんごはまだ真っ赤な顔をして口元を手で押さえている。  あ、もしかして俺にぶっかけたこと気にしてんのかな。前にもあったし。 「……漏らしちゃった」 「え、漏ら……え、え?」  はっとして下を見ると、俺の着ているスウェットにもさんごのTシャツにも、まるで蛇口から勢いよく噴き出した水をまともに浴びたように水飛沫が無数に飛び散っている。どう見てもさんごの精液だけの量ではない。 「あれ、でもこれ、漏らしたにしては少ないような……もしかして、潮吹いたんじゃないのか?」 「し、しお?」  さんごは何故かひどく動揺した顔で、自分と俺の服に飛び散ったそれを交互に見ている。 「でっ、でもオレ、今まで潮なんて吹いたこと……ない」 「お、俺も見るのは初めてだけど……なんか、それっぽいだろ。さっきイった時、今までと違う感じしなかった?」  俺はただ純粋に気になったことを聞いただけなのだが、その途端さんごの顔が火を噴きそうなほど真っ赤になった。どうやら思い当たる節があるようだ。 「……した」 「どんな感じだった?」 「どんなって……さっき難波さんがオレの握った時、軽く一回イっちゃってたんだよ。気が付いてなかったの?」  全く気付かなかった。 「そ……そっか。えっと、あの……きっ、気にしなくていいからな? ほら、ソファにはかかってないし」 「タオルは……全滅なんだけど」  ふと視線をそっちにやると、きちんと畳まれていたはずのタオルがいつの間にかぐちゃぐちゃに座面の上で散乱していて、そのうちの何枚かは確かにさんごの吹いた飛沫をまともに浴びて濡れてしまっている。 「……洗濯し直しだな、こりゃ」  さんごは俺の膝に座ったまま、へなへなと肩に顔を押しつけてきた。 「うう〜〜……もう、最悪。難波さんのせいだよ、信じらんない」 「なっ、なんで俺のせいになるんだよ?」 「出ちゃうって、やめてって言ったのに……難波さんが、しつこいから」 「お前だってすげーノリノリで腰振ってたくせに」 「うっ、うるさいな! 変な言い方しないでよ! オレが上乗ってんだからオレが動かないと、難波さんが大変だろうなって思って……それでいつもより頑張ってただけだから! 腰なんか振ってない!」 「いててっ、バカやめろ! 悪かった、ごめんって!」  やっぱりさっきの、無自覚だったのかな。無自覚であれって、本人は認めたくないみたいだけど……やっぱりスケベだよなあ、こいつって。ああ、でも。 「すっげーかわいい、智也」  思うより先に言葉が出て、気が付けばぎゅっと抱きしめてた。  朝も夜もずっと眺めていたい、金も時間もいくらかけたって惜しくない。だってこんな可愛いさんごを見られるのは、世界で俺だけが持ってる特権なのだから。 「……難波さんの、ばか。ヘンタイ」 「初めて潮吹いちゃうくらい気持ちよかったんだな〜、よしよし」 「うるさいよ。誰のせいだと思ってんの?」 「はいはい、すいません」  さんごの今まで知らなかった一面を知れば知るほど、ますます目が離せなくなってしまう。どうしようもなく惹きつけられて、もっといろんな顔が見たくてたまらなくて、どうしたらさんごは俺に秘密の顔を見せてくれるのか、そればっかり考えてる。  だけど、今日のはさすがに刺激が強すぎた。なんか新しい扉が開いてしまいそうだ。 (……さっきの、もう一回見せてもらえないかなあ)  そんなこと頼んだら、また『マニアック過ぎだから』って怒られるんだろうけど。
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