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1.始まりの手紙
『これを読んでいるあなたへ』
手のひらに収まる白い紙を広げると、冒頭にはそう記されていた。
「疲れたぁー……」
1日の仕事を終え、重い身体で地下鉄へ乗り込んだ私は、運良く空席を見つけ勢いよく腰を下ろした。
腰の辺りに何か違和感を感じ、手を伸ばすと座席と背もたれの間に折りたたまれた1枚の紙を見つけた。
── おはよう?
こんにちは?
こんばんは?
これから1日が始まるのですか?
それとも終わって帰宅するところでしょうか?
よい1日を。
またはお疲れ様でした。
── K より ──
「何これ……?」
紙に目を通し、丸めて捨てようとした。
そういえば、『お疲れ様』なんて挨拶 以外で久しぶりに言われたな。
こっちで一人暮らしを始めてもうじき4年。
役者をやっている私の毎日は、家から、バイト先のカフェ、芝居の稽古場を往復するだけだ。
芝居の仲間と仲が悪い訳では無いが、所詮はライバル。
心の内を話せる人もおらず、表面的には和気あいあいやっているが、私が素の自分の言葉を発するのはコンビニで返事をするときくらいかもしれない。
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