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05. 根付
拓海がいなくなって、今まであいつがやってくれていた家事の中でも群を抜いて億劫だと感じているのは日々の食材の買い出しである。掃除や洗濯なんて自分一人なら少しくらいやらなくたって死にはしないが、食べることだけはどんなに面倒でもやらないというわけにはいかない。食い溜めと寝溜めはできない、人の身体は何とも不自由なものだ。
家からいちばん近いスーパーまではちんたら歩いて片道二十分程度かかる。車はあるがわざわざ車を出すには少しためらう距離であり、かと言って気が向いた時にふらりと歩いて行ける距離でもない。このどっちつかずな距離が俺の出不精に拍車をかけているのだ、絶対。特に今のような蒸し暑い季節は外に一歩でも出ようという気さえ起きず、買い出しの度に気持ちを奮い立たせるのに一苦労している。
今日もまたどうにか家を出てくることはできたものの、スーパーにたどり着く頃には道中の暑さで体力のほとんどを使い果たしてしまった。せっかく夕飯どきの混雑する時間帯を避けて少し早めに来たのに、これでは意味がない。
(帰る前にちょっと中で涼んでいくか……)
若い頃はこんなことでいちいち休んだりしなくても平気だったのに、年々身体が虚弱になっている気がする。
今日はもう帰って何か作る気力も残ってないし、適当に惣菜を買っていくか。
「……あれ」
惣菜や弁当の販売コーナーには先客が一人いた。この時間帯だとこのあたりをうろついてるのは大抵年配の客なのだが、その人は珍しく若い男だった。
手にカゴを提げて、惣菜の揚げ物たちを吟味するようにじっと見つめている。
「望月くん?」
よっぽど真剣に見入っていたのだろうか、俺がすぐ隣に立って声をかけるまで彼はこっちに気付く様子を見せなかった。
「えっ、あ……よ、洋二さん」
「こんにちは」
「こ、こんにちは。びっくりした」
「ごめん、真剣に選んでるとこ邪魔したな」
望月くんは少し恥ずかしそうに下を向いた。相変わらず前髪が長くて目は見えないけど、彼の仕草や視線の向きでその時の感情が何となく分かるようになった、気がする。俺の目にそう見えるというだけで実際に望月くんがどんな気持ちなのかまでは分かるはずもないが、少なくとも初めて会った日よりは確実に彼に対して親しみを感じるようになっている自分がいる。
「揚げ物の気分なら、ここのコロッケがお薦めだよ。家で作るコロッケと同じ味で結構好きなんだよね、俺」
「洋二さん、コロッケ作れるんですか?」
「あはは、まさか。お袋とか拓海がよく作ってくれたやつとかなり似てるから、勝手に家庭の味だと思ってるだけ」
望月くんはやっと笑ってくれた。彼も初めて会った日と比べたらずいぶんとくだけた表情を見せてくれるようになったと思う。
「望月くんは、料理できるの?」
「いえ、全然。毎日お弁当とか冷凍に頼ってばっかりです」
ふと見ると、望月くんの提げているカゴには既に弁当がひとつと食パンが一斤入っている。
あれ、弁当は一人分しか買わないのか。確か望月くんは今、あの店の爺さんと二人で暮らしてるんじゃなかったっけ。
爺さんは俺がこの町にくるよりずいぶん前に奥さんに先立たれたと聞いている。そして爺さん本人はここ最近体調が芳しくないようで、おそらく望月くんが爺さんの身の回りの世話をしているのだろうと勝手に想像していたけど、実情は違うのだろうか。
「なあ、望月くん。望月くんとこの爺さんって……今は」
途中ではっとして言葉を飲み込む。
何やってんだ。こういう詮索するようなのがいちばんダメなんだって、これで何度目だよ。しかしここまで言いかけておいて、やっぱりいいや、ではあまりにも不自然すぎる。
背中に嫌な汗がじっとりと滲んでくるのを感じながら必死に他の話題を探していると、望月くんはぽつりと答えた。
「爺ちゃんは今、入院してます。だからあの家には僕一人です」
「……え」
俺の不躾な質問に対して特に気分を害しているような様子を見せず、望月くんは淡々と言葉を繋げた。
「僕がこっちに来た時はまだ家にいたんですけど、僕が来て一週間くらいの頃にちょっと風邪をこじらせちゃって。今までにもこういうこと何度かあったみたいだから、今回もすぐ退院できると思うんですけど」
「そう、なんだ……」
「本来なら普段お世話になってる方にはお話しておくべきなんでしょうけど……僕、こんなだから。この町で話せる人っていったら洋二さんしかいなくて。それに話したところで余計なご心配かけるだけだと思うから、まだ誰にも言ってないんです」
なんか、俺が思っていたよりも遥かに事態は深刻なようだ。望月くんは淡々としているし短期間の入院で済むと思ってるようだけど、爺さんの歳も歳だし……本当に大丈夫なんだろうか。
部外者が首を突っ込むことでないのは百も承知だが、今の望月くんは精神的に不安定な状態だ。そんな時に爺さんにもしものことがあったら、果たして彼は落ち着いて対処できるのだろうか。誰か一人でもそばで支えてくれる人がいないと、最悪の場合望月くんは茎が折れてしまうかもしれない。
「一人で大丈夫か?」
そんなこと聞いたところでどうにもならないのは分かっていた。もし大丈夫ではないとしても、望月くんの性格なら無理して『大丈夫です』と笑って答えるしかないのであろうことも。
俺にできることなんて何もない。分かっていても、今にも簡単に折れてしまいそうな彼をこのまま放っておくことなど俺にはどうしてもできなかった。
「はい。……ありがとうございます」
望月くんのことだから、そう答えるしかないのだろうとは思っていた。きっと彼は誰が手を差し伸べても、誰の手も取らずにただ笑って『大丈夫です』と言うのだろう。そういう子なのだ、だけど。
「本当にしんどい時は、俺に言ってな。役に立つか分からないけど、できる限りは力になるから」
望月くんの前髪の隙間から覗く目は、少し驚いたように丸く見開かれている。
お節介が過ぎたかな。でもやっぱり、今の望月くんを放っておくのは何か違う。たとえ望月くんがそれを拒んだとしても、手を差し伸べずに見て見ぬふりをすることはできない。
「洋二さん」
「ん?」
不意に、望月くんはさっき俺が薦めたコロッケのパックを手に取った。一人前の小サイズではなく、少し多めの中サイズのパックだ。
それを自分のカゴに収めると、彼は少しうつむいてぼそぼそと呟いた。
「今夜、その……お暇ですか」
「え? あ、まあ。暇だけど」
「もしよかったらこれ、一緒に食べませんか」
「……え」
望月くんはやっぱり顔を上げようとはしないが、いつもより少しだけ早口で先を急ぐように続けた。
「あのっ、本当にご迷惑でなければ、なんですけど。洋二さんの飼ってる金魚、見に行きたいなって思ってて……その」
前髪に隠れて望月くんの目は見えない。それでも、彼が今とんでもなくテンパっているということは俺にもはっきりと分かった。
意外だった。いつも落ち着いてる望月くんが、焦ってこんなふうに早口で喋るなんて。
その時ふと、カゴを持つ望月くんの指がぎゅっと握りしめられているのに気付く。
今まで俺は望月くんに対して馴れ馴れしい態度をとってしまったと気が付く度に後悔していたけど、もしかして、望月くんは迷惑だと思ってなかったんだろうか。俺の都合のいい解釈ではなく、そう思ってしまってもいいんだろうか。
本当に迷惑だと思ってるなら、一緒にメシ食いませんかなんて言い出さないよな、普通。そうだよな?
俺に気を遣ってるとかじゃなくて、今の望月くんの言葉はそのとおりに受け取っていいものなんだよな?
「そうだな。むさ苦しい家だけど、それでもよければおいで」
望月くんはそろそろと顔を上げて俺を見た。
「……いいんですか?」
「もちろん。甥っ子が出て行ってから誰かとメシ食うことなんてなかったから、望月くんが相手してくれると嬉しいよ」
「……」
「金魚も喜ぶと思うな。毎日こんなオッサンと顔突き合わせてんのにもいい加減うんざりしてるだろうし」
「僕もオッサンですよ」
ようやく望月くんは笑った。それを見たら何だか全身から余計な力が抜けていくようで、ついほっとため息をついてしまう。自分がひどく緊張していたことにその時初めて気付いた。
「望月くん、アルコール飲める?」
「え、ええ。あんまり強くないですけど、少しなら」
「そっか、じゃあビールも少し買ってこう。こっちこっち」
「あっ、はい」
*
思うと、誰かとこうやって買い物をするのもずいぶんと久しぶりのことだ。
俺も望月くんも料理はほとんどできないから惣菜やつまみばかりカゴに入れていたが、それでも誰かと何を食べようとか話しながら食品を選ぶのはとても新鮮で、同時にとても懐かしい時間だった。
「おつまみ結構買いましたね」
「だなあ。余った分は望月くん持って帰ってな、俺一人じゃ食えないし」
「えっ、でも……」
「望月くんがまた来てくれるんなら、うちに置きっぱなしでもいいけどね」
海辺の遊歩道は、海原の彼方から差す夕日に包まれている。オレンジ色の光が望月くんの横顔に映えてほのかに赤く見えた。
「甥っ子が出て行ってから、一人でメシ食うのが時々妙に物寂しく感じるようになっちゃってね。今まで一人が当たり前でずっと平気だったのに、歳のせいかな」
「そういうのって多分、ずっと一人だといくつになっても平気なんだと思いますよ。洋二さんはほんの短い間でも甥っ子さんと一緒だった時間を知ってるから、今は一人が寂しく感じるんじゃないでしょうか」
「そういうもんかね」
「僕はよく、分かりませんけど。前に爺ちゃんがそんなこと言ってました」
「……そうか、爺さんが」
十年近く前、あの店へ行くといつも優しく迎えてくれた爺さんの笑顔を不意に思い出した。いつも笑っていたけど、爺さんも心の中ではずっと寂しかったのだろうか。
もっといろんなことを話せばよかったのかもしれない。そして、もっとたくさんのことを聞けばよかったのかもしれない。何を今更、と自分でもあきれてしまうが、望月くんと話しているとあの爺さんのことが無性に懐かしく思えてきて、何だか今すぐにでも会っていろんな話がしたくてたまらなかった。
「爺さんが元気になったら、また話したいな。あ……でも、もう俺のことなんて覚えてないか」
「そんなことないですよ。爺ちゃんボケたりとかはしてないから、町内会の人たちのこともまだちゃんと覚えてます」
「そっか。じゃあ退院したら、三人でお祝いしようか」
「はい、ぜひ。爺ちゃんも喜びますよ」
昼間はあんなに蒸し暑かったのに、夕暮れの海を渡って吹いてくる風は不思議と肌に心地いい。日中の暑さにぐったりして過ごしているとこういう小さな変化をつい見落としてしまいそうになるが、季節は確実に夏から秋へと移り変わっている。今日スーパーで望月くんに会わなければ、今頃俺は暑い暑いとぼやきながら家路をとぼとぼ歩いていたかもしれない。
たまには意識してこんなふうに散歩でもした方がいいよな、やっぱり。暑いからと家にこもってばかりじゃ、新しいアイディアも浮かばないだろうし。
寄せては返す波の音が耳に心地よく響く。もう聴き慣れてしまい今や生活音のひとつみたいなものになっていたはずなのに、今日は何故かいつもより遠くから響いてくるように感じた。
波打ち際をぼうっと眺めながら歩いていたら、隣を歩く望月くんの腰のあたりで何か小さなものがちらちらと揺れているのを見つけた。
目を凝らしてよく見ると、彼のポケットから短い紐がぶら下がっていて、その先端に十円玉くらいの大きさのキーホルダーらしきものが結び付けられている。それが望月くんの歩くリズムに合わせて揺れているようだ。
不意にこっちを向いた望月くんは俺の視線にすぐ気付いたらしく、自分のポケットから出ていた紐を見て少し困ったように笑った。
「あ……」
「なんだ、それ?」
望月くんはポケットから財布を引っ張り出した。財布のファスナーについている引き手には短い紐が括り付けてあり、さっきのキーホルダーみたいなものはどうやらファスナーの引き手として使われているらしい。
望月くんはそれを指先でつまんで手のひらに乗せると、俺によく見えるよう少しだけこっちに近づいてきてくれた。
「……魚?」
老眼だから細部まではっきりとは見えないけど、それが木彫りの小さな魚であることだけは分かる。根付ってやつだろうか。ずいぶんと古いものみたいだけど。
「爺ちゃんにもらったんです。爺ちゃんは金魚だって言い張ってたんですけど、何の魚なのか正確には分からなくて」
「金魚? うーん……そう言われるとそう見えなくも、ない……けど」
体と同じくらいの長さがある尻尾のせいか、とても躍動感に満ちている。望月くんに断って手に取り、目の前に持ち上げてしげしげと眺めてみる。今にも本当に泳ぎ出しそうだと思うほど意匠の凝らされた彫りだ。
俺にはよく分らないけど、これって結構高価なものなんじゃないだろうか。
望月くんに根付を返すと、彼はそれをとても大切なもののように手に握って財布に収めた。
「爺さんがくれたってことは、かなり昔のものなのかな」
「ええ。爺ちゃんのおじいさんが、初恋の人からもらったものだそうです」
「爺さんの爺さん? ってことは、望月くんのひいひいじいさん、ってことか」
「そうですね。写真も残ってないから、顔は知らないんですが」
「へえ、なんかいいなあ、そういうの。その初恋の人ってのが後のひいひいばあさんってわけか」
「いえ、そうじゃないみたいです」
「え?」
海原の向こう、今にも水平線に沈みそうな夕日を見つめて、望月くんは目を細めた。凪いだ海の水面でオレンジ色の光がゆらゆらと揺れている。
「僕も詳しくは知らないんですけど……その、男の人だったそうで。初恋の人」
「へえ……」
すぐには言葉が出てこなかった。だから、そんなふうに気のない返事しかできなかった。この前俺が拓海の話をした時、望月くんもこんな気持ちだったのだろうか。
「いろいろあったんだろうなと思います」
わずかにまつ毛を伏せて優しく微笑んだ望月くんを見て、あの時の彼の薄い反応の理由が何となく分かったような気がした。
「まあ、初恋は実らないからこそいつまでも綺麗なものなんだろうな」
「ロマンチストですね」
「そうか?」
望月くんは何も言わず、ただおかしそうに笑っていた。
しかし、さっきの根付はいつ頃作られたものなんだろう。爺さんの爺さんにあたる人が初恋を経験する年齢の頃と考えると……いや、そもそも望月くんの爺さんっていくつなんだ。
「どうかしましたか?」
無言で考え込んでいたせいか、望月くんが少し気遣わしげな視線を向けてくる。ああ、またやってしまった。どうも最近、何か考え事を始めると誰かとの会話の途中でもそっちに意識が集中してしまう。歳だな。
「ああ、ごめんね。その根付、爺さんの爺さんがいくつの時にもらったものなのかなって」
すると望月くんも黙り込んでしまった。どうやら彼もそのへんについては詳しく知らないらしく、さっきの俺みたいに考え込んでいる。
「爺さんって今、いくつなの?」
「来年で卒寿です」
「そつ……九十?」
確認するように聞き返すと、望月くんは肩をすくめて力なく笑った。
「さすがにもう店は今年中に閉める予定なんです。本当はもっと早く閉めるようにって父も説得してたんですけど、爺ちゃん頑固だから」
「はえ~……」
驚きはしたが、それは爺さんの実年齢について驚いたわけではない。俺の両親より爺さんの方が高齢であることが判明したからだ。それって、つまり。
「あのさ……望月くんって」
前にそれを聞こうとした時は、あっさりかわされてしまった。だからきっと今回も教えてはくれないだろうと分かっていたけど、そこまで考えが至るより先に俺はまた同じことを聞いてしまっていた。
知りたいと思った。
どうしてこんなふうに思うのか、自分でもよく分からないけど。誰かに対してこんなふうに興味を抱くのは、ずいぶんと久しぶりのことだったから。
「前に言いませんでしたっけ、昭和生まれだって」
とっくに日は沈み、残照が望月くんの髪に映えて淡く光っている。やっぱり簡単に教えてくれる気はないのか、それとも俺をからかって楽しんでいるだけなのか、望月くんはいたずらっぽく笑って俺を見ていた。
「いや、俺もそうなんだけど」
「洋二さんはおいくつなんですか?」
そう言えばそうだった。望月くんの年齢を聞き出そうとしていながら、俺の方はまだ自分の年齢を望月くんに明かしていない。相手のことを知りたいと思うならまずはこっちの素性を明かしてから、そんな当たり前のことに今になってようやく気付く。
あまり認めたくはないが、自分で思うよりもかなり焦っていたのかもしれないな。いい歳したオッサンがみっともないったらありゃしない。
「……四十六だよ」
隠す理由もないのだが、自分の年齢を改めて口に出す度に自分で驚いてしまう。爺さんくらいの歳になればそんなこともなくなるのだろうか。
望月くんは特に驚いたり引いたりするような様子は見せず、静かに微笑んで答えた。
「それじゃ僕、洋二さんより一回り年下ですね」
きっとその時の俺は、とんでもなく間抜けな顔をしていたと思う。ぽかんとしてその言葉を飲み込み、頭で理解するまで、通常の三倍ほどの時間を要した。
「さ、三十四!? わっかいなあ~……全然見えない」
「はは、よく言われますよ」
俺のあまりに不躾な反応に困惑しているのか、望月くんは下を向いて自嘲気味に笑ったが、それでも俺はまじまじと彼の横顔を見るのをやめられなかった。てっきり拓海と同じくらいだと思ってたのに、人は見ただけじゃ何も分からないものだ。
「そのへんの同年代なんて、みんなもっとオッサンだろ。望月くんはちょっと童顔ってレベルじゃないな」
「この歳になると『若く見える』ってのは誉め言葉じゃなくて、恥ずかしいことですよ。年相応の経験を積んでいないように見えるってことだから」
珍しく望月くんは少し不機嫌そうな口調で言い返してきた。そういうところが若く見えるんだけどな、とか言うと余計に機嫌を損ねそうだ。
「ひねくれてんなあ、言葉どおりに受け取ればいいのに」
「洋二さんだって、実年齢よりはだいぶ若く見えますよ」
「喧嘩売ってんのか」
「だから言ったじゃないですか。バカにされたような気分になるでしょう?」
「可愛くないなあ」
「わっ……ちょ、あの」
小さかった頃の拓海によくそうしていたように、手を伸ばして望月くんの頭をわしゃわしゃと撫でる。伸ばしっぱなしの髪がボサボサになってしまい、望月くんはあわてたように自分の頭を手で押さえた。
「やめてくださいよ、もう僕こういうことされる歳じゃないのに」
「俺から見ればまだまだ若造だよ」
「……」
黙ってしまった。少し不機嫌そうにそっぽを向くその頬は、残照の中でもはっきりと分かるほど赤く染まっている。
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