カルロス

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カルロス

教えてもらったヤサの前で張っていると、直に男が一人出て来た 周囲の家は一家団欒の時間なのだろう、人通りはほとんどない 恐らく彼がカルロスなのだろう 悔しいが僕より遥かにイイ男だ 高級そうなスーツに夜目にもピカピカの革靴、頭にはボルサリーノハットを決めている ん?旅行に行くにしては手ぶらじゃない? おまけにせっかくのイイ男が辺りをキョロキョロしながら、何度も右手を懐に入れているし…おまけに猫背だ… 一定の距離を保ちながら付いて行く 左肩のボストンバッグが重い… さて何と声を掛けたモノやら… あんな殺気を漲らせてたら近付いて声を掛けた瞬間に懐に呑んでいるであろうヤッパかチャカを抜きかねない 歌姫の仰るように、根は優しい人なんだろうが どうも日本で言う「鉄砲玉」にしか見えない 報酬は前払いで受け取っちゃったし…今更見捨てるわけにも行かないか… と、黒の毛糸玉、アンジェリカとも言う、が僕に先んじて音もなく背後から近付き… 「あなた、死にたいの?」 アンジェリカーーーーーー!!! そんなにストレートに言う人がいますか!いや見事なスペイン語だけど! 案の定カルロスは飛び上がるようにして懐に手を入れてキョロキョロがひどくなり、周囲を見回している …あれで警戒してるつもりなんだろう 正直挙動不審にしか見えない 「私を探そうなんて思うんじゃないわよ?見つけた瞬間にズドンだからね?」 …それって僕に「撃て」って言ってますよね?全くとんでもない猫だ 「そんな物騒なモノ持って、どうするつもり?メトロで歌姫とランデブーの予定なんじゃないの?約束破る気?」 歌姫の名前が出た瞬間、カルロスの全身から力が抜けたようだ 俺が行かねえと…俺が行かねえと…と譫言のように繰り返している 「貴方一人が行ったところで死体がひとつ増えるだけ。大体相手に指定された場所に乗り込むなんて…正気じゃないわよ?馬鹿なんじゃないの?」 …アンジェリカ、そこまで言わなくても… と、ここで合図があったので僕が姿を見せる スペインでは東洋人は珍しいのか、ガン見されているのは…まあ仕方がない
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