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「…あんたは?」
僕から敵意も殺気も何も発していないので、カルロスも安心したのか僕に誰何するゆとりが出来たようだ
「私達は歌姫からアナタを連れて来るように頼まれているの、おわかり?」
僕が拙いスペイン語を発する前にアンジェリカが代弁してくれている
「俺が行かねえと…ボスや仲間が…」
これも一種の任侠なのかと感心
「相手は五十人はいて機関銃も用意して待ち伏せしているみたいだけど?アナタ一人が加わったトコロで、さっき言ったみたいに死体がひとつ増えるだけ。そしてアナタ達は海に捨てられておしまい」
…まあ言ってる事はあながち間違いないですが、もう少し言い方!
「じゃあ俺は…どうすれば良いんだよ…」
道端で頭を抱え、カルロスがへたり込む
「簡単よ?その懐の物騒なモノを私達に渡す、タクシーを拾って指定場所まで私達を案内する、そしてアナタは私達を下ろして身軽になったタクシーでメトロの駅で歌姫と合流する…ほら、簡単な事じゃない!」
潮風と月夜の中でカルロスは躊躇っていた
仲間を裏切り、自分だけが逃げ出す…まあまともな提案ではない
「あんた達に任せれば、ボスや仲間の命は、助かるのか?」
尤もな質問だ
「そこは大丈夫、任せなさいよ!私達はアナタ達よりもドンパチには慣れてるんだからね」
…まぁ、否定しませんが…
アンジェリカには内緒のもうひとつの依頼を受けている身としては耳が痛い…
と、カルロスが懐に手を入れ…震える手で銃身側を握って、僕に差し出して来た
コルトの22口径か…こんなおもちゃみたいな銃で仲間を助けられると信じている彼が、僕は少し憐れに思えた
そこへタイミング良く空車のタクシーが通りかかった
ここぞとばかりにカルロスを押し込み、アンジェリカが乗り込み、最後に僕が乗った
「行き先は?」
これはドライバーさんの声だ
「第三倉庫に頼む…」
蚊の鳴くような声でカルロスが行き先を告げた
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