これが最後

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これが最後

 ―――ビャアァァァァ……ン。  琵琶の音が不協和音を奏でた。  美帆(メイファン)の四貴妃選抜試験の最終である、実技試験の最中の出来事だった。  止まってしまった演奏。  ざわめく選考人。  青白い表情の美帆。 「ここまで!」と選考人の一人が声を発するまで、場内は水を打ったような静けさを保っていた。  最有力候補と噂されその実力を見せつけていた美帆が、ここにきて失敗を犯すとは誰も想像しておらず、場内は騒然とした。  琵琶を抱え、走り去る美帆。 「静粛に!選抜試験はまだ終わっておりませんぞ!次!」と選考人が叫ぶ。  選考人と共に実技試験を審査していた暁明(シャミン)が急に席を立ち、走り出した。 「暁明様?どちらへ!?」  出入口の警備の者の間をすり抜け、暁明は美帆を追いかけた。  会場裏で琵琶を抱えてしゃがみ込み、小刻みに肩を震わす美帆。 「……美帆」暁明の呼びかけに、ビクッと身体を強張らせる。 「ごめんなさい、暁明。私、私……」  暁明はそっとその震える肩に手を置き、美帆の背後にしゃがむ。 「わかっている、美帆。美帆は俺の為に今まで一生懸命鍛錬してきてくれた事、知っているから」  優しく暁明は声掛けするが、美帆は琵琶を抱えて俯いたままだ。 「もう私、暁明の正妃には……なれないの」と震える小さな声で呟いた。 「いや、きっと美帆は、今回の実技以外は満点だろう。実技の落ち度を考慮しても、きっと美帆が最高得点だ。絶対に、選ばれるよ」  暁明は美帆をなだめ、実家まで送り届けた。  後日、美帆の手元に落選通知が届いた。  そしてまた1週間後、四貴妃の枠が1つ空いている為、3カ月後に再試験を行うという通達が届いた。
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