正妃にはなれない

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正妃にはなれない

 再試験の通知に喜んだ父親が、表情を暗くして帰ってきたのは再試験1カ月前のことだった。 「先日の選考人から聞いたのだ。なぜ美帆が落選したのかと」  試験ごとに選考人を変えるとはいえ、選考内容は機密情報。それを聞き出すには相当なお金を積んだと思われる。  そのぐらい父親は必死で、最後の機会(再試験)にすがっているのだ。 「実技試験の失敗を含めても、美帆の成績は誰よりも優れていたという。失敗するまでは完璧な演奏だったとも。しかし、正妃の候補となる四貴妃が、大事な場面で失敗を犯すようでは務まらないという。大幅な減点対象、むしろその1点で落選となったという事だ」  椅子に座り、項垂れる父親に静かに寄り添う美帆。  急に父親は美帆の両腕を取り、すがりつき「頼む、次こそは!次こそは失敗なんてやめてくれ!努力をしてきていないのであればこれ以上受けさせない!実力が伴わないのであれば諦めがつく!しかしお前は、誰よりも優秀ではないか……」肩を震わし、涙する父親。 「お父様……同じ村の美鈴(メイリン)姉さんの事を覚えておいでですか?」  突然の美帆の質問に、父親は驚いた表情を見せる。 「美鈴……?あぁ、8年前かに現君主の采妃に採用された(ちょう)家の娘か」  現君主は皇帝の末の弟であり、暁明が18歳になるまでの仮初の君主だ。  もともと人員は揃っていたのだが、欠員が出ていたため急遽募集された。 「あの時は村を上げて盛大に祝ったものだった。しかし5年も経たぬうちに(やまい)を患って帰ってきたのだったかな。あと数年の務めだというのに。後宮はその下の側女でもそれなりに良い暮らしが出来るというのに身体を壊して帰って来るとは、もともと弱かったのかもしれんな。して、美鈴がどうした」  不思議そうにする父親の腕をそっと払い「いえ、何も」と言い、美帆は自室へ戻った。
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