正妃にはなれない

2/4
前へ
/10ページ
次へ
 最終試験前夜、美帆は試験会場の近くの宿舎で眠っていた。  その窓を叩く音に美帆は起こされ、そっと外の様子を伺う。 「……暁明!」 「よう、調子はどうだ?」  美帆の事が心配で、こっそり内廷を抜け出してきた暁明。  暁明は現皇帝が即位するまで美帆が住む村で育ってきたが、即位後この第六小国の内廷に住まいを移している。 「緊張しているんじゃないかと思ってな。俺の顔見て和んでくれ」と暁明は笑いながら窓の枠を乗り越え、部屋に入ってきた。 「嘘でしょ……!次期君主が何、木登りして女性の部屋に押し入っているのよ!落ちたり誰かに見られでもしたら……!」と焦る美帆。  暁明はお構いなしにいそいそと靴を脱ぎ、ベッドの縁に座る。 「暴君なんだから……先が思いやられるわ」とため息。 「だから、正妃の美帆が必要なんだろう」と笑う暁明。  その言葉に美帆の表情が曇る。  暁明は美帆の手を握り引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。 「どうした、美帆。大丈夫、きっと美帆は合格する」  しばらく黙る美帆。  その反応に暁明は不安になり、抱きしめる腕に思わず力を込めてしまう。 「……美帆?」 「私、正妃に……四貴妃になんてなれない」  絞り出すような声で美帆は自分の想いを告げた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加