正妃にはなれない

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 後宮から追い出されるかのように出戻ってきた美鈴は、5年前の美しかった面影は全く残っておらず、瘦せこけ黒色化した肌、止まらない咳、精神を病み、人目を避ける生活を強いられるようになった。 「美鈴姉さんには懇意にしてくださっていた四貴妃の方がみえたの。その事を妬むものからの嫌がらせが酷くても、四貴妃の方のお世話を出来る事を誇りに思っていたって。だけど、その方が病床に伏せるようになって、美鈴姉さんも同じ症状が出るようになったって……。村に戻ってきてすぐ、少し意識がはっきりしている時に私の手を握って教えてくれたの。そして、『後宮は魔窟だ、絶対に行くな』とも……。今じゃ人の姿を見るだけで叫び出して、会話もままならない」  美帆はその場に座り込み、顔を覆う。 「村だって、私が試験に合格するのを今か今かと待ちわびて、毎回宴の準備を進めていた事も知っている。お父様だって私の後宮入りを望んでいる。何より私が暁明の正妃になりたい。だけど、試験の途中で美鈴姉さんの顔が、叫び声が頭をよぎるの。ここでミスをすれば、落選するだろうって私が私の耳元で囁くの。今回だってきっと……」  うずくまる美帆を暁明が覆うように抱きしめる。 「落選通知が来るたびに安堵してしまっていた自分がいるの。私、死にたくない。美鈴姉さんのようになりたくない……」 「わかった。ごめん、美帆は試験だけでなく……恐怖とも闘っていたんだな。みんなの期待を一身に背負いながら……」  美帆は頷き、顔を暁明の胸に埋め背中にそっと手を回す。  暁明は美帆を抱きしめたまま、そっと頭を撫で続ける。  しばらくお互いに無言の時が続いた。  今後二度とこない、ただの暁明と美帆の二人だけの時間を堪能するかのように。 「美帆、あと1回だけ試験を受けてくれないか」  その言葉に驚いて美帆が顔を上げる。 「1次試験も2次試験も、最終の実技試験も完璧にこなすんだ。美帆なら出来るだろう」  青ざめる美帆の頬をそっと撫で、暁明は微笑んだ。 「そうすれば、俺が自ら不採用を通達してやるよ」
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