幼馴染なんて単なる偶然だ。運命じゃない

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 ああ、そっか。俺は推薦入学がほぼ決まっているから忘れてたけど、俺たちは受験生だ。真凛は受験勉強がある。それなら学年一桁の俺がいくらでも教えてやるのに。テストのときもそうだっただろ? 俺のお陰で初めてこんな点数を取れたって喜んでいたじゃないか。  いや、そうじゃない。俺としたことが気づかなかった。真凛は恥ずかしいんだ。好きな人に勉強を教えて欲しいと頼むことが照れくさいんだ。頭が悪いと思われたくない。そういうことか。気にする必要なんてないのに。真凛は吹奏楽に打ち込んでいただろ? 地元の秋祭りに向けて練習しているから、勉強が進まないのは当然だ。  だから俺は追いかけた。今どきスマホを持っていない真凛を誘えるのは学校にいる間だけだ。自宅は知っているが、訪問する勇気はない。そんなことができる中三男子がいたら教えてくれ。その勇気を分けてもらいたい。 「真凛!」  俺は周りが振り返るほどの声量を出したが、真凛の耳には入らなかったようだ。 「おい、姫路(ひめじ)!」  俺は恋人の姫路真凛の肩に手を置いた。  真凛はそれでも振り返らず、隣にいた見知らぬ男が俺の手を振り払った。は? 「真凛、行こう」  真凛に囁くように声をかけて、真凛の背中に手を回した。誰だよお前……。  俺の憤怒の表情に気がついたのか、勝ち誇って見えたのは真凛の背中に置かれた手のせいかもしれないが、それでも落ち着いた様子で俺を見た。 「……いきなり女子に触るとビビるだろ」  はあっ? ……何だって? 「真凛は迷惑してる。何を勘違いしているのかわからないけど、しつこく声をかけられて困っている。もうやめてくれないか?」  俺は恋ではなく鯉のように口をパクパクとするしかできない。睨みつけることもできず、その言葉の意味を飲み込もうと喘いだ。
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