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 翌朝。 「ふわあ、よく寝たあ」  思い切り伸びをしたところで、拳が何かに当たった。うん、なんだこれ。枕元にこんな大きいものなんて、置いたっけ? 寝ぼけ眼で確認してみるが、なんとも言えない触り心地だ。さすがの私も小ぶりの西瓜と同衾するはずはない。ええと、昨夜って私は何をしていたっけ?  そこまで考えて、飛び起きた。隣には半裸の店長さんが、笑顔でこちらを向いている。何、その格好。腕枕をしてもらっていたのに、伸びをして頬を殴ったの? 嘘、ありえない失態なんですけれど? 「ゆっくり眠れたみたいだね?」 「すみません」 「いや、怒っているわけではないんだよ。疲れはとれたかい?」 「おかげさまで」  本当に久しぶりの安眠で、身体の中から元気が湧き上がってくるようです。ってか、店長さん、半裸だよね? 全裸じゃないよね? やっぱりいったん、犬になったら洋服は消えちゃうの? どうしよう、毛布の下がどうなっているのか確認するのが怖い。私に着衣の乱れはありません。念のため。 「ここ、どこですか?」 「どこって、君が行きたがっていたわたしの部屋だよ」 「宿屋じゃなくって? このお部屋、めちゃくちゃ大きいですよ?」  私が騎士団の女子寮住まいということもあるが、自分の感覚では自宅とは思えない広さと豪華さに、内心焦る。このレベルの宿代を折半するだけのお金、財布の中に入ってたかな。思わず口に出た疑問に、店長さんは不思議そうに首を傾げる。 「そうかな。臣籍降下した王族としては普通の範囲だと思うけれど」 「……臣籍降下した王族? 誰が?」 「わたしがだよ」 「店長さん、王族なの?」 「ミーちゃんが自分で言っていたじゃない。わたしの正体を知っているのだから、自分の要求を飲めって」  いや、知らん。そんな話は初耳ですが? 「あの、店長さんの正体は『犬』ですよね?」 「そうだね、わたしの正体は『王の犬』だよ?」 「うん? 人懐こい、誰にでもほがらかな大型犬じゃなくて?」 「王の犬は、冷酷無比な人間の集まりのはずなんだけれど?」 「……」  国王陛下直属の魔術師団、通称王の犬。魔術師の中でも、ごく限られた人間しか所属できないそれは、さまざまな伝説に満ちている。  やれ、魔獣の群れを一撃で消滅させただとか、ちょっかいをかけてきた馬鹿を氷漬けにしてやっただとか、血気盛んな火竜とガチで喧嘩をしただとか。いろんな噂を聞くことはあれど、素顔は決して明らかにならない。  店長さんが、そこに所属している魔術師だって? いやいや、何の冗談だよ。でも店長さんが嘘を吐いているようには見えない。 「……店長さん、なんでそれを私に言うんです? もしも私が脅したとしても、しらをきることだってできましたよね? 私、どうなっちゃうの? 死体に口なしとかそういう感じですか?」 「だって家族には守秘義務はないからね。むしろ、ちゃんと自分の所属している組織のことは正確に伝えておかないと、有事の際に心配だし」  って、いきなりおでこにキスしてきたあああ。なんで? 一体どうなってるの? 「君は不思議な子だね。わたしに興味津々みたいだから、王の犬のことを嗅ぎまわっているのかと思いきやどうも違うようだし。そもそもその目にいやらしさがないんだよ。普通の女性は、金か身体か、その両方が目当てのはずなのに」 「いや、完全に身体目当てですよ!」 「身体目当ての人間が、隣でぐうすか寝るわけがないだろう。あんな思わせぶりなことを言っておいて、わたしは結構期待していたのに。無邪気にわたしを翻弄して。本当にミーちゃんはいけない子だ」  寝るって、そういう意味だと思われていたの?  いや、本当にただただ安眠を求めていただけなんですう。限界突破して、意味不明なことを言ったことは謝ります。ごめんなさい。だから、謎の顔面きらきら攻撃で、求婚まがいの言葉を吐くのはやめてえええ。勘違いしちゃうううう。
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