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【Prologue】
佳純には、六歳上の「兄」がいる。
「おかえり、おにいちゃん! きょうはようちえんですなのおやまつくったの」
博己が小学校から返ってくるのを待ちかねて佳純が飛びつくように話しかけるのを、彼は面倒な素振りも見せず優しい笑顔で付き合ってくれた。
いつも、いつも。
「かすみのがいちばんおおきかったんだよ! でもたかしくんがふんじゃって、みつるくんが『かすみちゃんにあやまれ!』って」
「へえ、しっかりした子だな」
感心したような彼の声。
「うん、それでまおちゃんが『みつるくんとけっこんする!』っていったの。そしたらちえちゃんが『ちーちゃんは、ぱぱとけっこんするって決まってるから』って。かすみはね、けっこんするならおにいちゃんがいいなっておもった」
「幼稚園には他にカッコいい男の子いないの? その『みつるくん』は?」
博己が特に嫌がる様子でもなく問うのを全力で否定する。
「だって、おにいちゃんがいちばんかっこいい! おとうさんもかっこいいけど、もうおかあさんとけっこんしてるしぃ。ちえちゃん、ぱぱとけっこんなんてへんだよね?」
変と言うなら「父」でも「兄」でも変わらないというのは、当時の佳純の頭にはなかった。
大好きな博己。
──兄として、家族として、だけではないことに気づいたのはもっと時間が経ってからだったけれど。
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