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【3】
「かおりさん、本当に綺麗ねえ。『ウェディングドレス』ってそれだけで特別だけど、やっぱり元が良いと違うわあ」
母が感嘆の溜息を漏らすのを、佳純はその隣で同じ想いで聞いていた。
綺麗なドレス。綺麗な花嫁。
大切な自慢の兄に相応しいと心から感じる、美しく聡明な彼女。
「では次は御親族の皆様もお入りください」
博己とかおりが結婚式を挙げたチャペルの別室で、カメラマンの声が掛かった。
主役二人の撮影のあとは、それぞれの家族も加わった全員の集合写真になる。
「ほら、佳純ちゃん。何ボーッとしてるの! このお写真、ずっと残るんだから。しかもうちだけじゃなくて、博己くんたちはもちろん向こうのおうちにも大事なのよ!」
母の小声の叱責にようやく我に返り、佳純は精一杯の笑顔を作って「兄夫婦」の方へ踏み出した。
まだ学生ということもあり、佳純はこの日のために買ってもらった華やかなパーティドレスを身に纏っている。
第一礼装は未婚の女性である佳純の場合振り袖になるのだろうが、両方の親の申し合わせで「親族は洋装で」ということになったらしい。
成人式に母の振り袖を着た経験からも、禄に食事もできない状態になるのは目に見えていたため正直ありがたかった。
「お父さん、お母さん。今まで僕を支えてくださって本当に感謝しています。これからはかおりちゃ、──かおりと二人で新しい家庭を築いて行きます」
改まった博己の挨拶に、父も母も目を潤ませて言葉が出ない様子だ。
博己の中で、おそらくはずっと立ちはだかっていた「家族に対する負い目や蟠り」は昇華できたのだろう。
かおりの存在で、彼女との関係において。
「佳純も。『家族』の存在が俺にとってどんなに大きかったか、今のほうがよくわかる気がするよ。これで縁が切れるわけでもないしね」
「お兄ちゃん、あたしもお兄ちゃんがいてよかったこといっぱいあり過ぎるくらい。これからはかおりさん、……『お姉さん』と幸せになってね。いままでよりずっとね!」
最後まで涙なしに告げられたことに安心する。
これは、紛れもなく佳純の本心だった。
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