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 そういえば、家に来た当初は呼び名も当然ながら「叔父さん、叔母さん」だったという。  しかし母が、「佳純が真似するから、博己くんが嫌じゃなければお父さん、お母さんって呼んで欲しい」と頼んだそうだ。  確かに本心でもあったのだろうが、半分以上口実でははないかと佳純は思っている。  博己が気兼ねなく、両親をそう呼べるように。 「学費も全部出してもらうのに、小遣いまでなんて……」  高校時代、アルバイトをしたいと切り出して「勉強に差し支えるから」と母に止められた際に、彼が口にした言葉。 「それくらい当たり前でしょ? 親なんだから」  あっさりそう告げる母に俯いていた義兄の姿を覚えている。  十歳になるかならないかだった当時は思い至らなかったが、泣いていたのかもしれない。  おそらく二人は、佳純が開いたドアの外から見ていることには気づいていなかった筈だ。  博己はずっと、『家族』に申し訳ない気持ちを抱えて生きて来たのだろうか。  それは両親の実子である佳純には想像さえ及ばない重い現実だ。
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