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    ◇  ◇  ◇ 「あー、(あっつ)う! 夜になってもそんな涼しくなんないよねぇ」  ほぼ効果なしとわかりつつもパタパタと手で顔を扇ぎながら、佳純は隣を歩く義兄に話し掛けた。 「アスファルトの輻射熱だろ。まあ街に暮らすならしょうがないよ。──佳純、上見て。空」 「空?」  唐突な博己の指示に疑問符が浮かぶ。それでも逆らわず義兄に倣って立ち止まると、佳純は顎を反らして天空を見上げた。 「あれ、わかるか? ベガ」  彼が真っ直ぐ伸ばした腕と指の先を目で追う。高層マンション群の向こうの晴れた夜空に、まばらな煌めき。 「えーと、あの明るい目立つ星?」 「そう。で、右下の方のあれがアルタイル。あと、……ここじゃよく見えないけど左のたぶんあの辺りにデネブってのがあって、三つ繋げたのが夏の大三角」 「『夏の大三角』って聞いたことある! えー、こんなフツーに見られるんだ!」 「いや、だから見えないけどな」  苦笑する義兄の、幼い子どもに向けるような優しい声。  博己にとって自分は、いつまでも「小さな妹」のままなのだろうか。  佳純はもう中学生なのに。……本当の妹でもない、のに。  しかし、それだけは口に出せない。  まず間違いなく、博己は『妹』の真意を理解はしてくれないだろうから。その場合、彼を深く傷つけることになる。 「ちょっとは涼しくならないか? 気分だけでも」  星を見つめたまま静かに語る博己。 「えー、それはぁ。……うん、でも確かに一瞬暑いの忘れた!」  吸い込まれるような、と形容できるような満天の星空とは程遠かった。  都会とは言えなくとも、所詮は都市郊外だ。  大自然の澄みきった空気の中、山の頂上に見えるものとは、同じ星でもやはり違う。
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