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それでも夏の夜空に、身体はともかく心が浄化されたような気はした。
おそらく、涼やかに光る星の効果だけではなく。
そう、きっと博己とふたりで見上げたからだ。
優しく、賢く、その上背が高くて格好もいい。佳純の自慢の『お兄ちゃん』。
佳純は高校合格後も同じ塾の大学受験コースに通ったのだが、塾帰りのお迎えは丸六年続いた。
彼は大学を卒業後も院に進んだため、就職して家を出るのと佳純の高校卒業が同時だったからだ。
ずっと一緒だった義兄がいなくなることに寂しい気持ちはあったが、引き止めるわけにも行かなかった。
佳純が我儘を振りかざしても、さすがに進路を簡単に諦めて曲げることはしないだろう。
それでも博己に余計な心労を掛けてしまう。
「お兄ちゃん、今まで本当にありがとう! 私ももう大学生になるし、これからは一人で頑張るよ」
「佳純なら大丈夫。俺は当然のことしかしてないよ。頑張ったのは全部佳純だろ。……なんかあったらいつでも連絡して。話し相手くらいはできるからさ」
だからなんとか笑って送り出した。今生の別れではあるまいし、と自分に言い聞かせながら。
他人とは違う。義理とはいえ兄妹だから、決して二人の関係は切れないのだ。
砂山のように、簡単に崩れたりはしない。
──遠く離れて暮らしてはいても。
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