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「佳純ちゃん、用意できたの!? もうすぐ時間よ」 「はいはい、もーバッチリよ!」  母の急き立てるような声に答えて、佳純は改めて机に立てた鏡を覗き込んだ。  髪も服もメイクもなかなか決まっている、と内心で自画自賛する。  今日は博己が、夏季休暇を利用して結婚相手を家族に紹介するために連れて来るのだという。  義兄が独立してもう二年以上が経った。両親は少し前からそれとなく聞かされていたらしいが、佳純にはまさしく寝耳に水だ。  それでも特に混乱することもなく、むしろ彼の相手に会えるのを楽しみにしていたのだ。意識の上では確かに。 「はじめまして。荻野(おぎの) かおりです」 「大学のサークルで一緒だったんだ。学部は別だけど同学年で、僕もかおりちゃんも現役だから年も同じ」  義兄の恋人、──近い将来には妻になるその人は、綺麗で知性的でいて優しそうな非の打ちどころのない女性だった。  ……佳純には、最初から文句をつける気などない、筈なのだけれど。  両親と挨拶を交わしたかおりと、佳純も加えた五人でしばしの和やかな時間を過ごす。  午後からの約束だったため、博己とかおりは最初は夕食を一緒に、というつもりだったようだ。  しかし、母が「いきなり知らない家でご飯も気を遣うだろうし、あまり遅くならない方がいいから」と、お茶になったという。  父がこっそり教えてくれたところでは、両親の結婚の挨拶時に、まさしく母が気疲れしてしまった過去からの反省らしかった。  祖父母にも決して悪気があったわけではなく、母も歓迎の意を理解してはいてもやはり「大変だった」と零していたそうだ。  ましてや自分たちは博己の実親ではない。  互いのためにも、彼や結婚相手とは適度な距離感を保ちたい、という想いが特に母にはあったのだろう。  初めは皆がどことなく緊張していた対面も無事に済み、これから正式に結婚に向けて動くことになる。  準備に携わるのは当事者の二人とせいぜい双方の両親で、妹の出番はまずない。  次は両家の顔合わせというところか。
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