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 かおりが家を辞する際に、博己に誘われて佳純も二人とともに出掛けることになった。  駅への道すがら聞くと、彼女が以前から『恋人の』と話したがっていたと聞かされる。  佳純も、彼女についてもう少し知りたかったのでちょうどよかった。 「大学のときヒロが、……博己くんが『シスコン』て揶揄われるたびに『うちの妹は可愛いからな!』って返してた意味がよくわかった。佳純ちゃんくらい可愛かったらそりゃあそうなるわよねぇ」 「いや、だって年離れてるからさぁ。どうしてもよちよち歩きの頃がチラついて……」  とりあえず入った駅前のカフェ。  昔は二人で、あるいは家族揃って何度も訪れた馴染みの店だ。  義兄が家族に加わったとき、佳純は二歳だった。それ以前にも、伯母に連れられて家を訪ねて来ることはよくあったらしいが。  正直、そのあたりの記憶などまったく残っていなかった。気が付いたら、博己は佳純の『兄』だったのだから。  しかし彼には、その頃の印象が一番強いのかもしれない。  二人で楽しそうに会話しながらも、かおりは合間に佳純に目線や声を向けるのを怠らなかった。  佳純が疎外感を覚えないようにとの気配りなのはもちろんわかっている。  ずっと年下の佳純にも、彼女は義兄や両親に対するのと同じ柔らかな笑みを向けてくれていた。  心温かい人。  家での会話の中で、かおりは博己の置かれていた状況、──実母を亡くして叔父夫婦に引き取られ、従妹である佳純と『兄妹』として育ったのもすべて承知だと知らされた。  その上で博己の妹として佳純に接してくれている。 「わたし兄と弟がいて、ずっと妹が欲しいと思ってたの。仲良くしてくれると嬉しいわ」 「……はい。あたしもお姉さん欲しかったんで嬉しいです」  義兄が愛したのが、こんな素敵な女性でよかった。  そう感じているのも間違いないのに、何故か心に靄が掛かっているような気がする。
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