雄太の選択

2/3
前へ
/3ページ
次へ
ここはどこ?僕はなぜこんなところにいるの? 暖かくて気持ちがいい。目の前には綺麗なお花畑が広がっていた。誰もいない。いるのは雄太だけだ。 どこからか自分を呼ぶ声が聞こえる。 お父さんとお母さんとお姉ちゃんの声だ。しかし辺りを見渡すがどこにも人影はない。 「雄太」 しわがれた声がした。振り返るとおじいちゃんがいた。懐かしい。小さい頃よくおじいちゃんの家に泊まりに行って遊んでくれた。大好きなおじいちゃんだ。隣にはおばあちゃんもいる。最近会ってないけど元気そうだ。 「雄太こっちへおいで。そっちに行ったらダメだ」 おじいちゃんが手招きをする。隣にいるおばあちゃんも手招きしていた。 「雄太」 この声はお父さんだ。怖いお父さんの声を聞くだけで背筋が伸びる。おじいちゃん達とは別のところにいた。横にお母さんとお姉ちゃんもいる。 「雄太はこっちの子でしょ。おじいちゃん達に惑わされないでこっちに来なさい」 お母さんがしゃがんで両手を広げた。あれは駆け込めば抱っこしてもらえるポーズだ。お母さんの抱っこは柔らかくて気持ちいい。お父さんの抱っこもお姉ちゃんの抱っこも好きだけど、やっぱり一番好きなのはお母さんの抱っこだ。 気がつけばおじいちゃんとおばあちゃんのいるところまで、お花畑を割いて道ができている。 お父さんとお母さんとお姉ちゃんのところまでも道ができている。 「雄太」 「雄太」 「雄太」 「雄太」 「雄太」 みんなの声が僕を呼ぶ。 どちらの道にも看板が立っていて、青地に白抜きで矢印が書いてある。矢印の方向は向こう向きだ。僕の家の前の道と一緒で、この看板は一方通行だと以前お姉ちゃんが教えてくれた。 「雄太、こっちにこい!」 おじいちゃんが必死で叫ぶ。 「雄太、いい子だからこっちに来なさい」 お母さんが優しく呼ぶ。 どちらにするか迷ったが、やっぱり僕はお母さんの抱っこが一番好きだ。そのままお母さんの胸に飛び込んだ。おじいちゃんとおばあちゃんの悔しがる声がする。それでもいいんだ。僕は大好きなお母さんに抱っこをしてもらっている。 「よくやった、雄太」 お父さんに褒められた。 「これでまた家族みんな一緒ね」 お姉ちゃんが笑みをこぼした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加