ケガレ山

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ケガレ山

小さい頃、祖母に言われたことを 今でもよく覚えている。 「いいか、咲耶(さくや) ケガレ山だけは、足を踏み入れてはいけないよ」 どうして?と聞くと祖母は  何かを思い出すように暝目して それからゆっくりと瞼を開いた。 昔々のお話だよ。 この山には木花佐久夜毘売(コノハナサクヤヒメ) という神様が棲んでいたんだ。 その加護を受けて 婆ちゃんが子供のときはそれはそれは 綺麗な山だったんだよ。 朝露が綺麗な緑色の葉っぱから滴り、 春にはピンク色の可愛らしい桜を咲かせた。 よく、ヨモギやらきのこやらを 採りに行っていたもんだ。 でも、ある日 木花佐久夜毘売を祀る神社で 事件が起きたんだ。 馬鹿な男が木花佐久夜毘売の御前で 人を殺したんだよ。 その真っ赤な血は神社の壁や床を染めた。 それから、山は変わってしまったんだ。 草木は血のように真っ赤に染まり そこに棲む動物たちもいなくなった。 ある男がどうしたものかと 足を踏み入れた途端、 男の右足が赤く染まったかと思うと それは一気に全身へと広がり、 男は泡を吹いて倒れた。 その男は死んでいたよ。 全身を血のように真っ赤にしてね。 あの事件が起こったせいで 山が穢れ、木花佐久夜毘売が 怒ったんだろうね。 それから、佐久夜山と呼ばれていた山は ケガレ山と呼ばれるようになったんだ。 だから、絶対にあの山に入ってはいけないよ。
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