ケガレ山

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「はー」 わたしは田んぼが続く田舎道を歩きながら ため息をついた。 「どしたの、咲耶?」 隣を歩くショートカットの少女が 心配そうに覗き込んでくる。 「佐野くんに振られた……」 「マジで?」 聞いた割には興味なさげに足元の 小石を蹴る茉莉奈にムッとしながら口を開く。 「大体、茉莉奈が突っ走って わたしの気持ちを佐野くんに伝えちゃったのが 悪いんだよ!! なんで伝えちゃうのよぉっ!!」 「あはは。ごめんごめん。 それならさ、ケガレ山の 木花(このはな)神社に お参りに行かない? 願い事を叶えてくれる神社って有名なんだよ!」 えっ 「何言ってるの、茉莉奈! ケガレ山に足を踏み入れたら死んじゃうのよ!」 「そんなの昔の話でしょ。迷信、迷信。」 「で、でも!」 「じゃ、日曜の朝ケガレ山前で 待ち合わせね!」 「あっ。ちょっとっ!!」 茉莉奈は言いたいことだけ言って さっさと帰ってしまった。 わたしはため息をつき、 真っ赤に染まってそびえ立つ山を見つめた。 邪気が漂っていそうな雰囲気に背中がゾクリとなる。 でも、そうだよね。 茉莉奈の言う通り、 ケガレ山の言い伝えなんて迷信だよ。 そう自分に言い聞かせ、帰路を辿る。 『サクヤヒメ様……』 このときはまだ山から聞こえてくる声に 気づいていなかった。
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