記憶

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日曜日、わたしと茉莉奈は ケガレ山のふもとにいた。 禍々しい血の色の木々に本能が危険だと告げている。 「実は、あたしもさ、好きな人いるんだよね」 そう言いながら険しい山道を登っていく。 慌てて茉莉奈の後を追う。 どうしよう。山に入っちゃった……。 「へ、へえ」 「もうっ、へえって何よぉっ。 だからさ、木花佐久夜毘売様に 願いを叶えてもらおうと思って」 「だからってケガレ山に入ることないじゃない〜!」 「咲耶ってほんとビビリなんだから」 「び、ビビリじゃないし!」 最初は雑談を楽しんでいたけれど 登っていくうちに2人とも 段々と無言になっていった。 足が疲れてきた…… まだかなぁと前方に目をやると 朱色の鳥居が木々の隙間から見えてきた。 「あ、見えてきた!」 茉莉奈が嬉しそうに声を上げ 走り出す。 「ち、ちょっと!危ないよ!」 そう言うと同時に足元の石を踏んづけてしまい、 足首がグキッと音を立てた。 つっ! 「いったぁぁ〜っ」 痛めた足首を撫でながらも、神社へと向かう。 そこにはひと足先に着いた茉莉奈が拝殿を前に 手を合わせ真剣な面持ちで目を瞑っていた。 好きな人と結ばれますように とか願っているのだろうか。 わたしも目を瞑り、手を合わせた。
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