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真紅の血に染まった本殿の床と
苦悶の表情を浮かべた男の生首。
その横には胴体がうつ伏せになっていた。
男を殺したと思われる人物の包丁から
血が滴り落ちている。
その光景を見ていたわたくしは
無性に悲しくなり、
また燃え盛るような怒りを感じた。
「あなたは何の罪もない人を殺しましたね」
男がバッと顔を上げてわたくしの姿を探す。
けれど、わたくしは神。
見つけられるはずがない。
「ひ、ヒィッ!! だ、誰だ!!」
「……わたくしですか?
わたくしの名前は……
木花佐久夜毘売」
◯◯◯
「咲耶っ、咲耶ってば」
先程まで青々としていた木々が
いつものように赤いのに気づいた。
茉莉奈が怪訝そうな顔をして覗き込んでいる。
今のは一体何?
夢でも見ていたのだろうか。
「咲耶ほんとにどうしたの?
なんか変だよ?」
「あ……ごめん、ごめん。
なんでもない。考え事してただけ」
「ふうん。それならいいけど。
咲耶はなんて願ったの?」
「……忘れちゃった」
「えぇー?
咲耶のためにこの神社に来たのにー!」
「そんなこと言って
自分が来たかっただけでしょー!」
「あはっ、バレたか」
茉莉奈は眉を八の字にして誤魔化すように笑った。
小さな神社に背を向け、2人して歩き出す。
なぜか、胸がキュッと締め付けられるような
気持ちになったのはなぜだろうか。
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