真琴の独占欲

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真琴の独占欲

 「…へぇ、もっと詳しく聞きたいな、その話。」  真琴の攻略相手が自分ではない事に気を許していた冬馬は、大和と妙な雰囲気になってしまった事を笑い話のひとつとして話してしまった。途端にあの妙に粘りつく笑顔を向けて、全部言わせようと迫ってくる。 「…詳しくも何も、いつもみたいにちょっとくすぐられただけだし。別に何もないよ。」  真琴から目を逸らすと、真琴は椅子から俺の座るベッドに移ってきた。  「何もないって、今更?大和がくすぐって来て酷い目にあったって言ったよな?…あいつは爽やかな顔をして案外手が早いんだ。知らなかった?あいつに喰われた生徒結構居るんだから。」  冬馬は聞きたくなかった言葉を耳にして、恐る恐る真琴の顔を見つめた。 「…喰われたってどう言う事?」  すると真琴は殊更にこやかな笑顔を向けて、可愛こぶって首を傾げた。 「文字通りの意味だけど?やっぱり冬馬って可愛いね。うぶっていうか。どうしてこんなに無垢でいられるか不思議だけど、まぁみんなで守って来たからだけど。」  冬馬はますます違和感のある言葉を耳にした気がして、眉を顰めて真琴の口元を凝視して次に出てくる言葉を待った。  すると形の良い唇からちろりと舌が伸びて、見せつける様に唇を舐めて見せる仕草に、冬馬は文字通り飛び上がった。さっきから感じていた言葉の数々がこの仕草に凝縮されている気がして、途端に落ち着かなくなった。  気づけば自分の両腕はガッチリと真琴に拘束されていて、妙な緊張感が部屋を満たしている。  「冬馬も興味出て来た?大和に先越されたのは気に入らないけどね。俺はずっと前から冬馬の事大事に守って来たんだから。でも良かったよ。冬馬が無防備にあいつらに関わるの辞めてくれて。」  冬馬は大和の時と同じ様な妙な緊張感に焦りながら、それでも彫りの深い真琴の顔が今や近づいた事のない距離まで迫って来ているのに気づいた。ああ!どうしよう!?  けれど真琴の唇は触れるか触れないかの距離で止まっていて、冬馬はホッとする様な少し説明の出来ない複雑な感情に振り回されていた。  「キスされるかと思った?強引にする訳ないじゃん。でも冬馬ってキスした事ないよな?このままだとヤリチンの大和に奪われそうだけど、それでも良いのか?嫌なら俺としておく?冬馬はどっちが良い?俺か、大和か。ほら、言って。」  真琴か大和って何?冬馬はその究極の選択に答えを出す必要に迫られていた。ああ、だったら真琴だろう?ずっと側で時間を費やして来たんだから。まだ怖くない。  何がどう怖いのか考えを纏める暇も与えられずに、冬馬は返事をしていた。 「…お前?だけどそれって変…。」  冬馬の言いかけの疑念は真琴の唇にさっさと奪われてしまった。触れた唇の柔らかさに気づく間もなく、離れた唇はまた直ぐに落ちて来て、冬馬に反論の隙を与えなかった。  所詮冬馬も欲望に抗えない男子高校生だった。次々に触れてくすぐられる様な真琴のキスに圧倒された冬馬が、その気持ち良さに色々手放してしまったのは、やはり気を許している真琴が相手だったせいだろう。  一方の真琴はじわじわと腕から背中へと手をずらすと、ガッチリと冬馬を抱え込んだ。  中等部入学から側で一緒に仲良くして来た、無邪気で人の良い冬馬が生徒会に目をつけられた去年から、真琴の胸の奥はさざ波立っていた。その理由をここ数日冬馬が訳もなく自分を避け続けたせいで、笑えるくらいはっきり自覚させられてしまった。  172cmはあると本人が事あるごとに主張する様に中肉中背な冬馬は、決して突出して目立つ容姿では無かった。けれどもその好奇心に満ちた眼差しと、屈託のない性格が反映した明るい顔付きは決して平凡とは言えず、集団の中でも埋没することはなかった。  だからこそ生徒会の役員に目をつけられて助っ人の声が掛けられたのだろうし、屈折した性格だと自覚のある真琴も離れがたい相手だ。  ましてこうして触れてしまえば切羽詰まった欲望が湧き上がってきて、真琴には迷いなく腕の中の親友であった男を、自分だけのものにすることを決意するのは容易い事だった。  
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