動揺

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動揺

 「錦戸君、最高にかっこいいよね!?」 「京極先輩だって、あのクールな眼差したまんない!」 「でも一番は花柳会長だよなぁ。あの色っぽさ、尋常じゃないよ…。」  廊下でヒソヒソと囁き合っている男子生徒たちの目線の先にいる彼らを目にして、藤原冬馬はそっと踵を返した。いつもならどんなに周囲にブーイングされようが気にせずに彼らと合流していたけれど、数日前の衝撃から立ち直っていない冬馬には考える時間が欲しかった。  ため息をつきながら、迂回しようとひと気の無い階段を降りていく冬馬は、不意に腕を掴まれて強引に空き教室の並ぶ廊下を引き摺られて行く。  「おっ、おい!真琴!危ないだろ!?何だよ!」  見慣れた茶髪の友人に腕を掴まれた冬馬は、もつれる足元によろめきながら、空き教室へ連れ込まれてようやく手を振り解いた。 「何って、それこっちのセリフだけど。冬馬最近変でしょ。俺らの事理由もなく避けまくっててさ。俺、冬馬のこと親友だと思ってたけど勘違いだった?」  冬馬は目を細めて自分を見下ろす、粘りつく様な橘真琴の視線から目を逸らした。普段は感じないけれど、たまに真琴は今みたいに妙な迫力を見せていた。その違和感を気にしないでおくのも限界だった。  何と言っても今はその理由が分かるからだ。今まで呑気に過ごしていた冬馬は、今や彼らと関わらず距離を置くか、その他大勢の背景に紛れる必要があった。単なるクラスメイトだったら問題なかったのに…。  でもそんな絶縁宣言の様な事をいきなりこっちから言っても納得して貰える訳もない。 「…ごめん。俺ちょっと一人で考えたい事あって…。」  罪悪感を上回る焦りで、冬馬は真琴から目を逸らして後退った。何とかうまい言い訳をして、こいつと距離を取らなくちゃいけないと脳内アラームが鳴り響いている。  真琴はそんな冬馬の腕を目も留まらない速さで捻りあげると、妙に冴え冴えとした笑みを浮かべて耳元で囁いた。 「俺に隠し事しないでよ。分かりやすく可愛いのが冬馬じゃんね?」  耳に唇が触れている気がして冬馬は目を見開いた。何がどうなってる?どうして自分は数日前には親友だった、今は十分にヤバい奴だって分かってる相手に拘束されてるんだ? 「…隠し事なんてしてないよ!全然。真琴を避けてた訳じゃないし!」 「ふーん。そうかなぁ。どう考えても避けられてたよな?…まぁいいや。生徒会に行かないのなら俺の部屋で遊ぼうぜ。…いつもみたいに。」  それだけは勘弁して下さい。これ以上真琴とラブラブゲージ上げるわけにいかないんだから。冬馬は心の中でそう叫びながら、緩んだ腕を引き抜いて真琴から一歩離れた。本気じゃ無いにしても、腕は少し痺れていた。 「…お前やり過ぎ。腕痛いし。今日は用事があるから遊べない。悪いな、真琴。」  それだけ言い放つと、冬馬は不自然に思われない精一杯の速さで教室へと戻った。そんな冬馬の後ろ姿を見つめた鋭い眼差しの真琴が薄く笑って呟いた言葉は冬馬には聞こえなかったけれど、もし聞こえたとしても冬馬に攻略者相手に行動が取れたかはわからない。  『ふーん、そう言う態度なわけね。ふふ、焦らすなぁ。冬馬のくせに。』    
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