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そのときの山野辺夕子はまさに藁にもすがる気持ちであった。
伯父の家に居候をしている身で、これ以上お世話になるのは気が引ける。
虐げられているわけではないにしろ、煙たがってはいるだろう。なにしろ夕子の亡くなった母は、あやしい職能を持っていた女だから。
(山の神に仕える巫女とか、時代錯誤もいいところよね)
山野辺家が山主であることはたしかだ。
けれどそれは、単に山を持っているという意味であり、大昔のように山の神さまを讃え、祀り、護るというものではなくなっている。
現に伯父は役所に勤めているし、祭事とは一切関係がない。地元の神社仏閣に寄付金は出しているが、それは地主としての責務。妹夫婦が事故で亡くなったあと、ひとり娘であった夕子を引き取ってくれたのだって世間体あってのもの。
感謝している。おかげで高等学校へ通うことができた。
あとは就職だと思っていたのだが、それがとても厳しかったのである。
前述したとおり母は巫女だった。
祭事の折に巫女服を着てなにかを手伝うような、ただ衣装をまとっているものとは違い、それを掲げて少なからず金銭を得ていたのだ。
しかしそんな物語のような存在は、一般的には胡散臭いことこのうえなく、おかげで夕子は学校で随分とからかわれたものである。
おまえのかーちゃん変人だな、程度はかわいいもので、詐欺師だなんだのと糾弾されたこともある。おまえもおかしな術でも使ってみろよと囲まれたことだってある。いっそ本当にそれが実行できたらどれほどよかっただろう。
夕子は霊感とよべるようなものがまったくない、山の巫女を継げない落ちこぼれだった。
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