17人が本棚に入れています
本棚に追加
巫女としての能力、山の神との交信が不可能だと露見したとき、「ではこの話はなかったことに」なんてことになると、とても困ってしまうのだ。
伯母はすっかり夕子を嫁に出すつもりだし、伯父は伯父で姪の嫁ぎ先があったことに安堵している。
夕子にはもう行き場がない。
かじりついてでも嫁にしていただかないと。もしくは、女中として雇ってくれてもかまわない。
意気込んでいると、玄関の扉が開いて中から和服姿の若い男が出てきた。
はたりと視線が嚙み合って、しばし見合う。
「あなたは……」
夕子はあわてて頭を下げる。
「突然お邪魔して申し訳ありません。連絡は入れてくださっているはずなのですが、時間まではおそらく正確にお伝えできていないかと思います。わたしは――」
「山野辺さん、ですか?」
「さようでございます」
一拍おいて顔をあげる。
男は驚いたようすでこちらを見ていたが、門まで歩いてきた。
近くでみると上背がある。写真で見たときは、とても険しい顔をした青年だと思っていたが、こうして相対すると、それは『精悍』という言葉に置き換えられた。
なによりも先立つのは、その佇い。
傍にいるだけで気圧されて、夕子は粟立つ腕をさすった。
「話は聞いています。出迎えもせず失礼を」
「いえ、押しかけるような真似をして、こちらこそ申し訳ありません」
「仲人の方はご一緒ではないのでしょうか」
「草薙さんのお宅へ伺えばわかるとしか」
「なんと」
はあと大きく溜息を落とし、草薙青年は難しい顔つきでこめかみを押さえる。
厄介なことだと思っているのかもしれない。女ひとりで押しかけるなど、無作法な振舞いであることは承知していたけれど、夕子には後がないのだ。
どうしたものかと双方で黙っていると、玄関口から別の声がかかる。
最初のコメントを投稿しよう!