落ちこぼれの巫女は祓い屋に嫁ぎたい

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 巫女としての能力、山の神との交信が不可能だと露見したとき、「ではこの話はなかったことに」なんてことになると、とても困ってしまうのだ。  伯母はすっかり夕子を嫁に出すつもりだし、伯父は伯父で姪の嫁ぎ先があったことに安堵している。  夕子にはもう行き場がない。  かじりついてでも嫁にしていただかないと。もしくは、女中として雇ってくれてもかまわない。  意気込んでいると、玄関の扉が開いて中から和服姿の若い男が出てきた。  はたりと視線が嚙み合って、しばし見合う。 「あなたは……」  夕子はあわてて頭を下げる。 「突然お邪魔して申し訳ありません。連絡は入れてくださっているはずなのですが、時間まではおそらく正確にお伝えできていないかと思います。わたしは――」 「山野辺さん、ですか?」 「さようでございます」  一拍おいて顔をあげる。  男は驚いたようすでこちらを見ていたが、門まで歩いてきた。  近くでみると上背がある。写真で見たときは、とても険しい顔をした青年だと思っていたが、こうして相対すると、それは『精悍』という言葉に置き換えられた。  なによりも先立つのは、その(たたずま)い。  傍にいるだけで気圧(けお)されて、夕子は粟立つ腕をさすった。 「話は聞いています。出迎えもせず失礼を」 「いえ、押しかけるような真似をして、こちらこそ申し訳ありません」 「仲人(なこうど)の方はご一緒ではないのでしょうか」 「草薙さんのお宅へ伺えばわかるとしか」 「なんと」  はあと大きく溜息を落とし、草薙青年は難しい顔つきでこめかみを押さえる。  厄介なことだと思っているのかもしれない。女ひとりで押しかけるなど、無作法な振舞いであることは承知していたけれど、夕子には後がないのだ。  どうしたものかと双方で黙っていると、玄関口から別の声がかかる。
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