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「公文、なにをしているの。お嬢さんを立たせたままなんて、失礼でしょう」
「そうでした。すみません母さん。山野辺さん、どうぞ中へ」
「謝るのは私ではなくお相手にでしょう。躾がなっていなくてごめんなさいね。えーっと夕子さん、でしたかしら?」
「はい」
「遠くからおひとりで大変でしたでしょう。どうぞお入りになってくださいまし。ほら公文、あなたは先に入ってもてなしの準備でもなさい!」
ぴしゃりと叱りつけた和装の夫人は、やり取りからすると公文氏の母親。伯母とは正反対の印象を持つ朗らかな女性である。
(嫁姑問題はなんとかなりそう、なのかしら? すごく善意の塊だわ)
巫女としての能力は皆無の夕子だが、他人のこころには敏感だ。なんとなく気持ちが察せられるのである。
それが生まれの特異性から周囲に気を配りすぎているせいか、表面化まではしなかった能力の残滓なのかはわからないが、新しい場所へ飛び込んでもなんとかやっていくためには便利だと思っている。
導かれるまま、夕子は門を潜る。
途端、空気が変わった。
悪いほうにではなく良いほうへ。
その昔、母親について山へ分け入ったときに感じた清浄さに似たもの。
ああ、ここは良いところだ。
夕子は理由もなく納得した。
ここは、わたしが来るべき場所であったと、なぜかそう思った。
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