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到着したのは昼を随分とまわったころであったため、詳しいことはまた明日ということになった。
夕刻には当主も帰宅し、改めて挨拶をする。公文の父も驚いてはいたが、夕子がこちらへ訪れることは知っていたこともあり、出迎えの不備を同様に詫びられた。
公文の父親ということで、同じような風貌を想像していたが、反するように穏やかな顔をした男性で面食らう。草薙夫婦はふたりが並ぶとほんわかとした温かみがあり、公文ひとりがどこか異質であった。
かといって家族仲が悪いわけではなく、不愛想な息子を詫びる温厚な両親といった形。公文のほうもそれらを厭うようすもないことから、これが常なのだろうと知れる。
思えば夕子はいつも家の中で居場所をつくることができずにいた。
実の両親の下でさえそうだ。
山野辺の女でありながら、山神の声を聞くことができない。鎮めの儀式もこなせない。
母からの失望は常に感じており、そのかわりとばかりに学業に甘えは許されなかった。学びの範囲は一般的な教養だけに留まらず、山野辺家に伝え残る怪異の知識も詰め込まれた。母はとても厳しい師であった。
女のくせに生意気だと揶揄されながら、中学で学年の首席となったのは母のおかげではあるが、それは死した母の妄念のようにも感じ、素直には喜べなかったものだ。
通された客間で眠りにつく。
障子の向こうがぼんやりと光っていることに気づき、うっすらと横に引いてみる。広い庭は自然味に溢れており、月明かりの下で冴え冴えと怜悧な顔を見せていた。
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