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伯父の家は洋風建築で、庭というよりはガーデンという外国の言葉を冠するに相応しいものだったが、こちらは昔ながらの日本家屋。この家族に似つかわしい趣のある良い庭だ。
「……わたしも、ここの一員になれたらいいのに」
ぽつりと零した声は我ながらとても寂しげで、苦く笑った。
闇はいけない。
思考が悪いほうへ引きずられてしまう。
それはやがて邪を呼ぶ。
こんなことを当たり前に考えてしまうから、自分は普通の日常をうまく生きられず、いつもどこか借り物で、仮の住処にいるように感じられるのだろう。
ぼんやり眺めていると、ふと視界の端になにかが映った。黒い陰のようなものが見える。
あやかしの類だろうか。
祓い屋に恨みのあるモノが復讐に駆られて忍んできた――
無意識に内心で呪を唱える。
そのとき雲の切れ間で月光の位置が変わり、陰の場所を照らした。きらりとなにかが光る。
息を呑むなか、姿を現したのは猫。白い毛並みが月光に映えている。薄暗いため判然としないが、ところどころに色が入っているようだ。
「……なんだ、猫かあ」
夕餉の際にも姿は見なかったが、草薙家の猫だろうか。それともただの野良?
考える夕子に目を向けた猫は、やがてくるりと背中を向けどこかへ消えてしまう。立てたしっぽは茶色く、けれど黒い色が巻きついたような模様が印象に残った。
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