山頂を白馬が駆ける

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山頂を白馬が駆ける

理科室のカーテンが夏の夜風になびく。 少し開いた窓の隙間から入り込む清涼な空気が気持ちよかった。その空気は田舎の山林を源とし、木々のさざめきと共に室内に届けられる。 ふと、その風が止まった。途端に自身を取り巻く湿気がその存在を主張し始める。じんわりと全身が熱を持ち、汗ばんだ。 気がつけば、窓際に色白な女性がいた。 黒髪を後ろに束ね、白い衣に鮮やかな緋色の袴、まるで巫女さんのようだ。 小さな手には何やら缶が握られている。缶チューハイだ。桃味のアルコール濃度三パーセント程の、軽めに酔えるやつだ。 しかし、その女性、いや、女の子の見た目はせいぜい十五、六といった感じだった。 「未成年の飲酒はダメだよ」 考える前に近づき、話しかけていた。正義感か、好奇心か……。自分でもよく分からなかった。 「わたしは大人です! 突然、失礼ですよ!」 恐らく自身の怪訝な顔を察したのだろう。その女の子が付け足した。 「まあ、若く見られる事は多いですが……」 そうは言うが、その見た目から未成年だという疑いを払拭する事はできなかった。 まあ、今時、童顔な大人の女性は多いものだ。そう思って自身を半ば強引に納得させた。 「ああ、そうなんですね。失礼しました。ところで、今夜の夏祭り、そろそろ花火が上がる頃ですよ。一緒に屋上から見ませんか?」 自分でも驚いたが、そんな誘い文句を口走っていた。彼女は二つ返事だった。 妙に白い化粧に切れ長の一重の目、小鼻に小さな口。その整った白い顔を少し赤らめた。 急峻な山々を背後にした小高い丘の上にあるその高校からは、扇状地で打ち上げられる花火を一望できる。最高のロケーションだ。 ところが、満点の星空の下、いくら待っても花火は上がらない。おかしい、と思いながらも自身も酒を飲んだ。やはり、祭りにはビールだ。美味かった。
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