山頂を白馬が駆ける

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翌日、日の出とともに例の山に向かった。親父は山の麓に軽トラックを停めた。 目的地である神社の千木、つまり屋根の上端辺りが暖色の森の海から顔を出しているのが見えた。そこまで一時間かかるとは到底思えなかった。 山は大抵そうだ。遠目に眺めると何でもないように見えるが、一度足を踏み入れると、見えていた目的地は果てしなく遠く、心が折れそうになるものだ。 足早に歩く親父の背中を追って山道を進んだ。 うっすらと色づき始めた木々に秋の清々しい山風が心地よかった。意外にも景色を楽しむ余裕があった。 幼少期に歩いたあの大変な険しい山道は、大人の男にはさほどでもなかった。ランニングで鍛えたお陰だろうか。 滑らないように足裏全体で斜面を捉え、加重して歩くその一歩一歩は、心地よく筋肉を刺激した。 親父の背中を追い続けていて気がついた。あれだけ大きくて四角かった親父の背中が、幾分か小さく丸く見えた。 男手一つで子を育てた気苦労がそうさせたのか、自分が成長したせいか、加齢か……。実際のところ、その全てが正解だろう。 前方に、色づく木々にも増して鮮明な赤色を見た。鳥居だった。神社に到着したのだ。 一瞬、童心に返った。親父を抜かしてゴールテープを切るように軽やかに鳥居をくぐると親父が言った。 「そこは神様の通り道だ。真ん中を通るな」 確かにそうだ。鳥居を通る時は神様の通り道を避けて端を通るものだ。しかし、親父がそのような事を気にする人間だとは意外だった。
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