山頂を白馬が駆ける

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どれだけ時間が経っただろうか。 隣の巫女さんの様子がおかしい。顔を真っ赤にしてうつらうつらしている。 飲み過ぎか、いや、それはない。さっきから缶チューハイをなめるようにすすっていただけだ。手すりに置かれた缶を持つと、一缶の半分も飲んでいない事が分かった。 どうしようかと若干焦ったその時、巫女さんが倒れた。何とか抱きかかえると、屋内に繋がる扉から男が三人出てきた。 「大丈夫ですか? 手伝いますよ!」 「全く、困ったもんだな」 「この子はもう……。またやっちゃったのか」 まるで図ったかのようなグッドタイミングで助けが現れた。どうやら全員が巫女さんと顔見知りらしい。 「とりあえず保健室まで運びましょう」 そう言うひときわ大柄な男性をよく見ると、白馬の頭のかぶり物をしている。 夏祭りを仮装で楽しんでいたのだろうか。 いや、おかしい。境目がおかしい。白馬の白い体毛と人間の肌がぴったりとくっついている。 よく見ると、かぶり物としてはあまりに精巧な作りだ。精巧……。 いや、それも違った。 まるで本物のような、いや、本物だ。 二メートルを超えると思われるその長身で見下ろす白馬の長いまつげの下の両目は、確かに瞬きをしていた。 そして口を開き何かを言いかけた。 「そう言えば君さぁ……」 その瞬間、満点の星空も眼前の大男も巫女さんも、全てが目の前から消え去り、暗黒が自身を包んだ。 そして、遠くから電子音が聞こえた。遠くの音が次第に近くなり、目の前に明りが差した。 見慣れた自室の天井だ。蛍光灯は、朝六時になると自動的にフルパワーで全灯するように設定してある。 休職中で乱れている生活リズムを正す為だ。けたたましく鳴り響くスマホのアラームを止めた。 「あぁ、またあの夢か……」 初夏の早朝、ひとり呟いていた。 最近、同じ夢ばかり見る。嫌に鮮明な夢だ。必ず同じ展開になり、同じところで現実世界に引き戻される。 そしてまた、その明るさなど意に介さず、二度寝という名の罪深い無の境地に沈んでゆく……。
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