山頂を白馬が駆ける

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「それと……」 カウンセラーは続けた。 「未成年の飲酒を止めようとしたんですね。それは社会規範を意識した責任感や誠実さの現れです。良い傾向ではあります。ただし……」 彼女は再び言い淀んで、続けた。 「未成年が飲酒しているというそのシチュエーション自体が少々心配です。反社会性パーソナリティ、とまでは言いませんが……。まあ、気をつけて下さい」 要するに「あんた少しブッ飛んでヤバい気質を持ち合わせているから、気をつけて」という事だろうか。思い当たる節がないわけではない。 「怒りを感じたら六秒だけ、その感情を心にしまって下さい。それできっと大丈夫です」 そう言われた。ここで疑問がひとつ残ったので質問した。 「あの、夢の中の白馬って何を示唆しているんでしょうか?」 「それはどうでしょうね。よく分かりません。話す相手は選んだ方が良いと思いますよ。特に、その手の話はスピ系の人とか食いついてきますんで……」 スピ系とはスピリチュアル系の略で、占いに凝ったり、心霊現象を信じたり、陰謀論を語ったりする人を指すらしい。 全く縁のない人種だが、それらの人たちに偏見はない。 心理学、医学的には分析不可能だが、非科学的な観点ではヒントがあるかも。と、とりあえずそのように理解した。 妙に鮮明に覚えている白馬の顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。 その後、減酒を試みた。禁酒は無理だと思ったので減酒という手段を選んだ。 思えば、最初はハイボールを作って飲んでいた。美味かった。それがそのうち、氷抜きになった。その後、ロックになった。そして、水道水で割ったトワイスアップになった。終いには、ストレートになり、それもシングル、ダブル、トリプルと、一杯当たりの量が増え、それを朝から何杯も煽るようになっていたのだ。 その頃には、もう美味いとも思わなくなっていた。 まるで欲望に溺れるように、魅惑的な琥珀色に溺れて、現実という太陽から逃れるように、どん底まで沈んでいった。 そのプロセスの逆を辿れば良いと考えたが、そこから這い上がるのは容易ではなかった。
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