山頂を白馬が駆ける

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減酒は無理だった。やはり当面禁酒するしかないと思って覚悟を決めた。 まずは目の前の酒を捨てる事にした。何本もストックしてあったウイスキーの瓶の中身を全て洗面台に流した。 妖艶な琥珀色のその液体は、まるで断末魔のように、魅惑的な香りの花を咲かせながら、渦を巻いて排水溝に吸い込まれていった。 凄まじい量の空き瓶が、まるで亡骸のようにゴミ袋に収まっていった。 すると、片づいた部屋の一角から、すっかり埃を被った体組成計が出てきた。 こんな物もあったのかと物思いにふけった後、ふと、それに足を乗せてみた。電池は生きていた。そして、前回の計測記録が残っていた。何ヶ月も前、彼女と一緒にダイエットに励んでいた時のデータだった。 最新の計測結果は前回比というかたちで、無慈悲に定量的なデータを突きつけてきた。驚愕した。 体重、体脂肪率、内臓脂肪スコア、全てが別人のように変化していたのだ。自身の醜悪さが暴力的に数値化し、自分の心を痛めつけた。 それで良かった。現実を直視する良い機会になったのだ。そのまま職場復帰すればどれほどの醜態を晒す事になるか理解した。 それからというもの、酒を減らすどころか、酒を全く飲まない日々が続いた。 酒を飲みたいという衝動は断続的に訪れたが、一滴飲むと歯止めが利かなくなる事は分かっていた。 スーパーやコンビニの前の酒売り場をまるで磁石のように反発して避けて通り、買い物をした。
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