山頂を白馬が駆ける

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酒を控えて一ヶ月ほど経った頃だった。 また同じ夢を見た。高校の理科室に巫女さんが現れて、やっぱり桃味の缶チューハイを飲んでいた。 そして流れで夏祭りの花火を見ようと屋上に行った。で、やっぱり巫女さんは潰れた。 ただし、今回、自分はビールに口をつけなかった。すると、いつも通り男三人が現れた。 「大丈夫ですか? 手伝いますよ!」 「全く、困ったもんだな」 「この子はもう……。またやっちゃったのか」 そしてまた、白馬頭の大男が言った。 「とりあえず保健室まで運びましょう」 やはりその白馬の被り物の、いや、むしろ半人半獣の白馬人間がいつも通りに呟いた。 「そう言えば君さぁ……」 その真っ黒で大きな目は、真っ直ぐに自分を見下ろして無表情に、いや、そもそも馬に表情などないのかもしれないが、続けた。今回は目の前が暗転しなかった。 「最近帰ってこないけど、どした?」 間延びしたあまりにフランクな口調で、はっきりとそう呟くと、いつもの自室の天井から、タイマー設定された蛍光灯がフルパワーの光を注いだ。スマホのアラームも鳴った。 汗だくの朝だった。 とても不思議な感覚だった。あの白馬人間の言った「最近帰ってこないけど」とは何か……。 普段は非科学的な事など考えもしない自分がスマホで「白馬 夢占い」と調べていた。吉夢らしい。それもとびきりの。 ただ、その白馬人間の言ったことのヒントになりそうな事は見つからなかった。検索ついでに、地元の夏祭りについても調べてみた。 すると、驚くべき事実が発覚した。 なんとその祭りは、白馬の馬神様に豊穣を感謝したのが起源だという。信心深さとは無縁の世界で生きてきた事もあり、祭りの起源など気にとめた事がなかった。 そう言えば、しばらく祭りに行っていない。そもそも実家にもろくに帰っていなかった。
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