山頂を白馬が駆ける

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不思議と怖い感じはしなかった。せっかくの休職期間だ。久しぶりに実家に帰って、夏祭りにでも足を運んでみようかと思い立ったのだ。 親父に電話を掛けた。 「夏祭り? 先週終わったぞ」 驚いた。休みボケだ。一週間予定を勘違いしていた。親父は続けた。 「お前、大丈夫か? 休職中だからってカレンダーの数字くらい読めるだろう?」 親父らしい小馬鹿にした感じ……。 普段は寡黙でも、たまにそうやって人のミスを突っついてくる。いつもの感じだ。内心ムッとした。 しかし、同時に安堵した自分がいた。同僚を殴って謹慎処分の末に休職、どう考えたって芳しい状況じゃない。それを、それほど深刻に受け止めている様子ではない親父に安心したのだ。 「うち、来るか?」 親父が言った。内心心配してくれているのだろうかと、心がほぐれた。何だかんだ親との会話は安心する。 「あのさ、実は、変な夢を見て……」 自分でも驚いた。気が付けば、親父に夢の事、つまり、夢に出てきた白馬が地元の馬神様なのではないかという事を話していた。 親父は笑った。電話越しに、めったに笑う事のない寡黙な親父が豪快に笑っていた。 「何を言うかと思ったら、お前がそんな事を言い出すとはな」 一通り笑いを発散した後、少し落ち着いて続けた。 「山、登ってみるか? 良い運動になるぞ」
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