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第一章 黒い瞳のダミアン EP3.アメリア・ベルンシュタイン殺害事件
エルマー・ベルンシュタインは、ブレーメンで複数の工場を経営する資産家であった。彼の妻アメリアと結婚したのは彼が45歳の時であった。親子ほど年の離れた二人であったが、その夫婦生活は誰の目で見ても仲睦まじいものであった。そんな二人を突然悲劇が襲った。
結婚して、五年目の春。何者かによって妻は買い物に行くといったまま帰宅せず、警察に捜索願を出してから1週間後、妻アメリアは変わり果てた姿で帰ってきた。
発見場所はベルンシュタイン邸から2キロほど離れた森の中で、首を絞められ殺害されたのであった。
同じころ、同一犯によるものとみられる犯行が立て続けに2件起き、警察は連続殺人犯による無差別殺人として捜査をしたが、事件発生から3か月。手がかりになるようなものは何もつかめていない。
「最初の事件、アメリア・ベルンシュタイン殺害事件に関しては、顔見知りによる犯行である可能性が高いと思う」
ブレーメン警察のベーレンドルフ刑事は、煙草をふかしながら事件のファイルを眺めていた。
「顔見知りというと、夫のエルマー氏も含まれる、ということでしょうか?」
電話口の相手の声に、ベーレンドルフ刑事は不機嫌そうに答えた。
「ああ、そうだ。もちろん真っ先に疑ったさ。しかし、ガードが固くてな。周りの人間の証言もある。アリバイはあるが、こいつがどうにも信用ならない」
ベーレンドルフは椅子の背もたれに身体を預け天井を見上げながら話す。
「あれほどの資産家だ。金と権力でつじつまをあわせることも可能だ。ほかの二件の手口は実際、プロの犯行だと俺は睨んでいる」
「それじゃぁ、一件目の犯行との違いは明確なんですね」
ベーレンドルフは声を小さくして慎重に答える。
「後始末をしたのはプロの犯行だ。しかし、最初に殺したのはそうじゃない。よくある話だ。かーっとなって、首を絞め、気づいたら息絶えていた……みたいなことさ。しかし物証は何一つ見つからないし、状況証拠すら明確にあの男を犯人だど示すものは何一つない。動機さえわかれば、話は別なんだがな」
「そこまでわかっていて、ずいぶんと苦労しているようだね」
余計な口出し以外の何物でもないその一言にべーレンドルフは声を荒らげる。
「でぇ、なんだってお前さんが。人形使いのダミアンが、こんな事件に首を突っ込んでわざわざ署に電話をかけてきやがった!」
「実は依頼を受けてね。ベルンシュタイン卿に」
「依頼って、まさか、人形をか!」
「そうです。夫人のオートマタを頼まれました」
「おい、まさかあれをやるのか?」
「墓荒しは犯罪ということになるでしょうが、この際は仕方がないかなぁって。でも墓を暴いたのは僕じゃないですからね。持ち主がやるというのなら、それを止められる人はいないと思いますが……」
ベーレンドルフ刑事は煙草を灰皿に押し付けて消そうとしたが、吸殻がたまりすぎていて、思うように消せなかった
「あー、畜生!」
「そんな言い方は酷いじゃありませんか」
「あー、違う。こっちの話だ」
「まぁ、褒められたことではありませんからね。警察に顧客の情報を売るなんて、商売人としては失格です」
「でっ、いつだ?」
「あと30分ほどで始まります」
「なにー! 三十分だ!」
ベーレンドルフ刑事は、後ろの壁にかけてある時計を振り返ろうとしたが、電話線が邪魔をして見ることができない。仕方がなく、首を後ろにそらしてさかさまの状態で時計を見た。
「今、えーっと、三時半、いや、四時半か」
「ぎりぎりですね」
「今からそっちにいくから、余計なマネをするんじゃねーぞ」
「急いでくださいよ。鍵は開けておきますから。壊さないでくださいね」
「ちぃっ! 悪魔が!」
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