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それから数日後、僕はニュースで見たのだ。その山で、遺体が二つ見つかったという話を。一つは一ヶ月近く前のもの、そしてもう一つは最近のもの。それらはともに女性のものだったらしい。画面に映された顔写真の一つは、あの日山道で出会った女性のものだった。そしてそれだけではない。
あの山を登った夜から、しばしば僕は彼女の夢を見るようになったのだ。彼女は夢の中で、一緒に山に登ろうよ、と僕に呼び掛けてくる。そして彼女の傍にはいつも、別の人たちがいる。皆登山向けの服装をしていて、どうやら登山仲間のようだった。その中の一人は女性で、いつも彼女の傍に立っている。ニュースで見た顔写真のもう一つの顔と似た顔をしている。恐らく、それが彼女の親友なのだろう。
遺体が見つかったというニュースを見る前はさほど気にしていなかったのだけれど、ニュースを見てからは、とても怖くなった。彼女は、僕を登山仲間に誘っているのだ。ただし、生きている人たちではなく、生きていない人たちの。恐らく彼女も、そして彼女の親友も、その仲間に誘われ、仲間になってしまったのだ。きっと、もし山に登れば、僕もその仲間に入れられてしまうだろう。
夢の中では、その時々によって、彼女たちは違う山にいる。つまり、彼女たちがどの山で待っているのかは分からないという事だ。だから僕はそれ以来、山に登るのをやめた。山に登りさえしなければ、彼女たちの仲間に入れられることはない。ただ。
それが一年前の話で、そして未だに僕はその夢を見続けている。問題なのは、彼女たちが現れる、その背後の風景だ。最初は知らない山だったけれど、次第に見た事のある山の景色になり、最近は、山ではなく、僕の知っている駅前や近所の景色なのだ。彼女たちは少しずつ僕に近づいてくる。きっと彼女たちは、いつか僕にたどり着く。そうなると僕はどうなってしまうのだろう。引っ越しをすることも考えている。このマンションの部屋は気に入っているけれど、仕方がない。
あの日山に登りさえしなければこんな思いをすることもなかったのに。そう思うと、どんなに山が悪いのではないとわかってはいても、山の事が、嫌いになってしまうのだ。
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