夫の秘密

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夫の秘密

「おかえり。今週は帰れたんだね、お疲れ様。ごはん、どうする?」 「ああ、食べる」 明日は定休日、いつもなら帰ってこないか、もっと遅い。 こういう日は少しだけ機嫌が悪い。 (今日はフラれたか……) 「明日、バイトだよね」 「うん、9時に出る。パパ、明日はまた出勤なの?」 「遅めに行くけど、店休だから残った仕事片付けられるし」 「あんまり無理しないでね」 「うん、大丈夫」 キッチンに戻った恵子はため息をついた。 隼人は噓をついている。 夫の異変に気付いたのは半年くらい前だった。 支払い明細に気になるところを見つけた。 それまでも仕事で遅くなることはあったし、接待で遅くなることもある。電車が無くなる時間になると時々会社の近くのカプセルホテルを利用することも珍しくなかった。 増岡家はほとんどキャッシュレスで生活している。 いざという時のために現金を持ち歩いてはいるが支払いはほぼクレジットカードだ。そのためいつどこでどういう買い物をしたのか詳細に記録される。 夫のカードも然り。 カプセルホテルをつかえばその履歴が残る。 それがいつからか、利用しているはずの日の記録が所々抜けていることに気が付いたのだ。 家族カードを使えば本会員でログインした際にすべてわかる。しかし、その記録もない。 「どういうこと…」 会社には泊まれないことになっている。 それに、わざわざ帰れないことを連絡してきていたはずなのに。 その疑問は早々にはっきりとした。 カードの明細に記録されているコード決済アプリへのチャージ額が増えているのだ。 何か理由があるのだろうと隼人に聞いた時、恵子は夫の嘘に気づいてしまった。 「ねえ、チャージ増えてるけど、カプセルホテルこっちで支払うようにしたの?カードより使いやすい?」 なんでもない普通の会話のはずなのに、隼人の目がほんの少し動いたのがわかった。
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